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□イエスおあノー
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「なぁ、キセキってなんだろうな?」

「なんですか急に」

「俺にとってキセキってなんなんさ?」

「新しい愛人か何かの話ですか?」



どうやら新しい愛人、キセキさんが彼にとっては謎な人物らしい。彼の言葉から推測するに、キセキさんは大人の雰囲気にミステリアスをプラスしたセクシーダイナマイだ。はいはいはいはい良かったですね。どうしてあなたの周りは女に困らないようにできてるんでしょうね。



「女じゃねーよ。奇跡だよ」

「……」

「……何びっくりしてんの?」

「ついに宗教の勧誘まで始めたんですかラビさん。先に言っておきますが、黒の教団はすでに宗教団体です」

「勝手に怪しい人にしたてないでもらえますか」

「違うの?」

「違うの!」



膝の上でペラペラ捲ってた暇潰しの本から目を離すと、彼はいつの間にか本を閉じていた。今日は珍しいことだらけだ。



「それで、なんでその話し始めたんですか?」

「お前さ、奇跡って信じる?」

「……宗教勧誘」

「ちげえって!信じんの?信じないの?」

「信じてますけど……一応」

「そ、」

「ラビさんはどうなんですか」

「俺は、信じてないんさ」

「…寂しい人生ですね」

「はっきり言うな、お前」



頭を掻きながら苦笑いしたラビさんが、なんだか無性に小さく見えた。あれ、この人こんな笑い方する人だったっけ。



「具合悪いんですか」

「え、」

「なんか、今日はらしくないです」

「そう、か?」

「少なくともツッコミにキレがありません」

「俺はツッコミ担当した覚えねーんだけどな」



また。彼は緊張したような焦っているような、強張った表情で笑う。



「奇跡とかいかにも胡散臭くて信じないタイプですよね、ラビさんは」

「胡散臭いとまでは言わねーけど。奇跡って考えるより必然って考えるタイプなんさ」

「じゃあラビさんがチャラチャラ目障りな赤毛に生まれてきたのも必然なんですね」

「お前がくらーいくらーいジメジメした黒髪に生まれてきたこともな」

「私の艶やかキューティクルな黒髪は奇跡の産物です。一緒にしないでください」

「…胡散臭っ」

「ラビさんのひん曲がった性格は必然ですね。おめでとうございます」

「お前の口の悪さもな」



ハッ!と鼻で笑いながら悪態つく彼は、まるでどこかのパッツンのようだった。



「どうしても奇跡を信じないんですね」

「信じられないんさ」

「信じろよ。お前のちっぽけなプライドなんて捨てて信じろよ」

「俺からプライド取ったら何が残るんさ」

「変態だけですねごめんなさい」

「ムカつくから謝んな」

「どうしたら信じるんですか」

「……」

「奇跡」

「お前そんなに俺に信じさせたいわけ」

「ラビさんごときが私の意見に反対することがムカついて仕方ないんです」

「なんつージャイアン!」

「それで、どうしたら信じるんです」

「お前が信じてくださいお願いしますってサザエさんのテーマソングノリノリで歌ったら信じてやらなくもないさ」

「長い上にウザイですね」

「じゃ、イエスって言ったら」

「……宗教勧誘?」

「いつまでそのネタ引きずんの。肯定の意味のイエスだよ」

「イエスイエスオーイエスほら信じました?」

「もうちょい」

「イエスイエスイエスイエス」

「お前は猿以下」

「ノーノーノーノー」

「ノーって言ったら信じないぞ」

「イエスイエスイエスイエス」

「実は数学のテストで18点取った」

「なんで知ってんですか…!」

「……」

「イ…エス」

「俺に勉強を教えてほしい」

「イエスイエスイエスイエスイエスイエスイエスイエス!」

「俺のテストのヤマが当たるノートが欲しい」

「イエスイエスイエスイエスイエスイエスイエスイエス!!」

「つーか俺が欲しい」

「イエスイエスイエスイエスイエ…ス?」

「俺のことが好き」










(イエスって言われたら奇跡だろ)






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