文V
□君を想う
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年を越してすぐ、持ち上がり組の俺たちはぬるい感じで受験を終え、そろそろ卒業ムードになってきた。
と言っても、親しいヤツラは皆持ち上がりで氷帝学園の高等部へ進学するので、別に何が変わる訳でもない。
変わると言えば、校舎がちょっと離れた所に移るが、実は共有の施設何かもあったりするほど、中等部と高等部の距離は近かったりする。
外部から入ってくる奴もいるけど、たぶん同じクラスに知り合いが一人もいないってことにはならないだろうから、高等部へ行くことに差し当たり何の不安もない。
ただ一つを除いて。
俺には一つだけ、大きな不安と心残りなことがある。
長太郎のことだ。
部活を引退した後も、なにかと言えば呼び出してつれ回していたが、俺が高等部に上がればなかなかそうはいかなくなるだろう。
あいつとダブルスが組めなくなることは残念だが、それより何よりあいつの顔を見られなくなることが嫌だった。
実は俺は長太郎のことが好きで、でも告白する勇気が出せないでいる。
あいつは少なくとも先輩としての俺はすごく慕ってくれていると思う。
しかし、たまにそれ以上に想ってくれているんじゃないかと思うことがある。
俺がなに言っても笑って答えてくるし、急に遊びに行こうと誘っても断られたことがない。
誕生日にメールをくれたり、他の3年より遥かに丁重に扱われていると思う。
長太郎、お前も俺のこと少しは好きでいてくれてるのか・・・?
長太郎のことを意識しすぎていて、最近よく自惚れてしまう。
卒業前に告白してみようか。
俺が本気で告白したら、アイツはお人好しだから、押しきられてOKしてくれるんじゃないか?
もうアイツが俺のこと好きじゃなくても、アイツのこと独占できるなら同情でも何でもいい。
それにこんだけ俺を慕ってくれてるんだから、俺のマジな告白を軽蔑したりしない気がする。
たとえ断られて関係がぎくしゃくしても、もう口をきいてもらえないくらい嫌われたりひかれたりはしないんじゃないか?
そんなことをつらつらと考えながら、俺は岳人と跡部が待つ玄関に向かっていた。
岳人はともかく、跡部とは部活を引退したら会うことも少なくなるだろうと思っていたが、お互いテニスがなくなってみると、勉強やら行事やらにうちこまざるを得なくなって、廊下や図書室、集会ホールなどで以前より頻繁に顔を会わせている気がする。
他の3年とも同様で、忍足なんかも教室が遠いのに毎日顔を見かける。
まぁ、奴の場合は岳人とまだ仲良くつるんでるから、岳人と一緒にいる俺とも顔を会わせる機会が多いってだけかもしれないが。
持ち上がり組は恐らくこなしきれないだろう大量の課題が出ているため、今日は息抜きも兼ねた勉強会をしようってことで、久々に跡部の家に皆で集まることになっている。
こうやって何だかんだで集まってるのも、引退後も頻繁に顔を会わせてる理由の一つだろう。
皆テニス馬鹿だから、テニスができなくなったら他にやることなくて何か寂しいらしく、引退前より跡部ん家で騒ぐことも増えた。
今日は跡部の家のテニスコートで久々にテニスができるので、俺はちょっと浮かれていたりする。
長太郎がいねぇからダブルスはできねぇな、とか長太郎のことを考えると顔が緩むと同時に、胸が痛くなるけど、これからテニスができるしと考えると、いつもは息苦しいほどのモヤモヤした思いもちょっと和らぐ。
俺も大概テニス馬鹿だな。
と、玄関に向かうために中庭を抜けていると、不意にケータイが震えた。