文W
□夏の終わり、恋の始まり
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暑い時は何もしないに限る。
少し体を動かしただけで全身がうっすらと汗ばむような季節は特に、だ。
夕暮れ時だと言うのに、屋外ではまだ蝉がやかましい。
暑い部屋のベッドの上に寝転がって、俺は漫画を読んでいた。
意地でも動いてやるもんか。
と、俺は酷暑という強大な敵を前にして、高い志を持ってゴロゴロと漫画を読んでいた。
扇風機はもわもわとした室内の空気をかき回すという作業をするために、ずっと首を振り続けている。
徐々に外が薄暗くなっていくに従って、全開の窓からは時折一筋の涼風が吹きこんできている。
クーラーを入れようかどうか迷うところだ。
もう小一時間ほどクーラーを入れようかどうしようか迷っているのだが、ここまで乗り切ったのならこのまま粘り勝ちに持ち込んだ方が良いのではないかと、もはやクーラーとの我慢比べのようになってきてしまっている。
いや、しかし、机の上にあるリモコンを取りに行くのがすでにめんどくさいな。
とりあえずこの巻を読み終えてからにするか。
このまま平行線のサドンデスに突入するかに見えた状況が急に中断された。
ベッドのまくら元に投げていたケータイが鳴っており、見れば古泉からのメールだった。
『家の前にいます』
気持ち悪いな。
ストーカーか、お前は。
眉をしかめつつも、窓から外を窺えば、玄関口から少し離れた電柱の横に他の交通の邪魔にならないよう電柱によりそうように行儀よく立っている男が見えた。
良く分からないが少し微笑んでいるように見える。
気持ち悪いな。
Tシャツに短パン姿だったので、着替えてから玄関を出る。
電柱の横にはやはり古泉が行儀よく立っていた。
俺がメールに気付いてなかったら、何時間でもそこに立っていそうな気がする。
近くで見ると、やはり微笑んでいた。
一応こいつの知人である自分でさえ気持ち悪いと思うのだから、この電柱の影で笑っている男を見たご近所の方々が警察に通報してもおかしくないはずだ。
こいつを長いこと放置せずにすんでよかった。
と、思っていると通りすがった女子高生の二人組は古泉の顔を見てはしゃぎながら通り過ぎていった。
世の中不公平だな。本当。
「何だよ古泉」
こっちに気付いた古泉が口を開くより早く、だしぬけに問うと古泉は笑みを深めた。
「花火しませんか?」