文W

□あれ?これって・・・。
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ブーン ブーン


「あ・・・」


朝、目覚まし時計のアラームが鳴るより一時間も早い時間に、ケータイのバイブ音で目が覚めた。


まだ6時である。


眠たい目をこすりながら、ケータイのメールを確認する。



『おはようさん(^o^)/
昨日話しとったやつ、工藤の読みがあたっとたで。

新聞見てみー。


あ、そうや。
今週の土日、そっち遊びに行っていい?』


「ばーろー・・・。はえぇんだよ・・・非常識な。そっちは朝練だろうがよぉ・・・」


こっちはまだ寝てんだよ、とかすれた声でたどたどしくメールの差出人を詰りながら、それでも新一の目と口は笑っている。

両親が不在で一人暮らしをしている新一にとって、毎日とはいかないものの数日に一通は送られてくる服部からの早朝メールは心温まるものだった。


しばらくベッドに転がったまま締まらない顔をしていた新一だったが、再び寝るには微妙な時間だったので、仕方なく起きだして身支度を始めた。


「今週の土日か・・・」


腹が立ったので返信はしばらくの間ほっとこうと決めた新一であったが、一人で朝食の食パンをかじりながら考えることと言えば、服部からのメールの内容についてばかりだ。

浮かれてるな、と冷静に自分の気持ちを観察している自分を意識しながらも、どこかウキウキそわそわした気分で新一は家を出たのだった。




「新一!」

昼休憩になってやっと服部へのメールに返信していると、蘭が駆けて来たので新一はケータイをしまった。


「おーう。どーしたよ」


机に頬杖を突いたまま問いかけるが、蘭は机の前に立ったまま言い淀んでいる。


いつもハキハキしている蘭にしては珍しいなと新一が眉根を僅かに寄せると、やっと蘭が口を開いた。


「今週末のことだけど・・・」


「へ?」


何の話題かついていけず、変な声を挙げてしまった新一を、蘭が仁王立ちで見下ろした。


「まさか!忘れてたんじゃないでしょうね!買い物につきあってくれるって言ったじゃない!」


「あぁ、そうでしたそうでした!」


やっべ、何で忘れてたんだ!?と、決して記憶力が悪いわけではないはずの頭を抱えたくなった。

一方、上から新一のことを睨みつけていた蘭は、腰にあてていた手を下して、急に脱力した。


「それがね、空手の練習試合が入っちゃって・・・行けなくなったのよ」


「そっか・・・」


その言葉を聞いてほっとした自分がいたことは事実で、無意識のうちに「よかった」と続けてしまいそうになったが、すんでのところでその言葉を飲み込んだ。

代わりに別の言葉が口から飛び出す。


「今週末に服部が遊びに来るらしいから、蘭にも会いたがると思ったんだけど。仕方ないな」


「服部君が遊びに来る予定だったの?教えといてよ〜!和葉ちゃんも?」


「いや、驚かそうと思ってさ。買い物行くんだったら観光も一緒にすればいいかと思って。遠山さんは来ないと思うけどなぁ、どうだろ」


「そっかぁ、残念ね。よろしく言っといて」


「おう」


「じゃあ、部室寄ってくるわ。今度また買い物付き合ってね」


「わーったよ」


蘭は踵を返して立ち去り際に、ふっと振り返って最後に一言、怒ったように投げ捨てた。


「本当は、新一と二人で買い物行きたかったんだからね!今度は誰も呼ばないでね!」


真っ赤な顔をして駆けて行ってしまった蘭の後ろ姿を見ながら、新一は顔に張り付けていた表情を全て落とした。


「嘘ばっかりだ」


なんでこんなにスラスラと言えるかな。職業病かな、なんて。

蘭との約束なんて完全に忘れてた。

週末は服部と二人で遊ぶつもりだった。

遠山さんが一緒に来る可能性なんて考えもしなかった。


「うーん・・・何か」


心の中がもやもやして今一つ釈然としない。

あと少しで何か分かりそうで、机につっぷして少し唸っていると、ポケットに入れていたケータイが震動した。


「・・・」


ケータイを開くと、新着メールが一通。

服部平次。


『よっしゃ!

 ほな、金曜の夜そっち行くで!
 
 迎えよろしくww』




「あはは」



新一は乾いた笑いを一つして、ケータイを閉じると立ち上がった。


「やめやめ!糖分摂って脳を甘やかそう」


蘭には今度埋め合わせすればいいや、などと考えながら、財布を尻ポケットにねじ込んで、新一は売店に向かった。
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