文W
□元旦
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「初詣、ですか?」
毎年年越しはひどく寂しい気分になる鵺野だったが、今回は妖狐のマンションで特番を見ながら、油揚げの入ったそばをすすったという、何とも穏やかな年越しだった。
そのまま玉藻のマンションに泊まって、その翌日。
鵺野が初詣に行くかというと、齢三百才の妖狐は驚いたような何とも言えない微妙な顔をした。
「何だよ。嫌か?」
この妖狐が案外寒がりなのと、人混みが嫌いだと言うことを思い出した鵺野は、さして気分を害することもなく率直に尋ねた。
「いえ、嫌という訳ではなく・・・。ただ行ったことがないもので」
少しびっくりしただけです、と苦笑のような笑みを浮かべる玉藻に、鵺野は目を丸くした。
が、すぐにこのずいぶん人間くさくなった狐が、現役の天狐様であることに思い至り感心したように頷いた。
「そっか、お前稲荷神社だったらまつられる立場だもんな」
「ええ、人間に混ざって私が祈っていたら、氏神もさぞ驚くでしょうね」
とぼけたようにそう言う玉藻に吹き出してから、鵺野はふと頭に浮かんだ疑問を口にした。
「ここら辺の氏神って知り合い?」
「いえ、この辺りは稲荷神社はありませんから、知り合いではないはずですよ」
そういいながら玉藻はコートをはおり、車のキーと財布を手に取った。
「さぁ、早く行きましょう。どうせ混んでいるでしょうが昼までには帰ってきたいですし」
鵺野は嬉しそうに笑ながら、マフラーを掴んで玄関に向かった玉藻を追いかけた。