文W
□あれ?これって・・・。
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昼休憩が始まって間もなく、弁当の半分を三時限前に食べてしまっていた平次は早々に弁当箱を片付けながら、このまま購買へ行くか、外で友達と騒ぐか、それとも昼寝でもするか、と考えを巡らしていた。
「お?」
と、学ランのポケットが震えているのに気付いた。
「おっ!」
ケータイを取り出し何気なく画面を見た平次は、そこに表示されている名前を見て小さく歓声を上げる。
今朝方送ったメールの返信に違いない。
ゲーム機に飛び付く子どものように嬉々として、平次は今来たばかりのメールを開こうとした。
「平次ー!」
突然教室の後ろから大声で呼びつけられて、平次は不機嫌そうに眉をしかめながらも渋々振り返った。
「今ヒマ?こないだ言っとったことやけどな・・・」
「俺は今忙しいんや。また後にしてくれ」
幼馴染みの話を半ばで打ち切って平次はケータイに目を戻す。
「平次のおばちゃんがな、今度夕飯食べにおいでーって誘ってくれて・・・」
そんな平次に構うことなく和葉は用件を続ける。
「ぅおっしゃっー!」
「!」
突然平次がガッツポーズで叫びながら、椅子を蹴倒して立ち上がったので、和葉だけでなく教室中の生徒が平次を見た。
「何やの急に!びっくりするやんか!」
和葉が怒鳴ると、平次は「すまんすまん」とへらへらしながら着席した。
「ほんでな・・・」
クラスメートが首を傾げながらも思い思いの昼休憩を再開したのを見て、和葉も気を取り直して再び口を開いた。
しかし平次はというと、今度は一転してすごい勢いでメールを打っている。
和葉のことは頭に無いようだ。
「ちょぉ、平次聞いてんの?へいじー!」
耳元でがなりたてられてやっと平次はちらっと幼馴染みに目をやった。
「何や煩いのぉ。そない叫ばんでも聞こえとるわい」
「あんたが返事せんからや!」
「へーへーそらすんません」
気のない返事をしながらも平次はメールを打つ手を止めない。
「で、今週の土日やけどなぁ…ってやっぱ聞いてないやん!」
ついに堪忍袋の緒が切れた和葉は平次の手からケータイをもぎ取った。
「ちょお、何すんや!」
急に我に返った平次は仁王立ちで怒っている和葉からケータイを取り返そうと立ち上がる。
「ちゃんと聞いてくれるまで返さんからな!」
「分かった!聞く聞く!ほら言うてみぃ!」
焦った平次をしてやったりと見返して、和葉は改めて口を開いた。
「やからな、今度の土曜か日曜平次の家遊びに行くから!言うてんの!」
告げられた内容に少し困った顔をした後、平次はあっさり言った。
「今週の土日なら俺はおらんけど、まぁ勝手に来てくれ」
「えぇー!平次おらんのー?何でー?」
和葉が動揺した隙にケータイを取り戻しながら、平次は事も無げに言う。
「工藤ん家行くんや。まぁオカンが晩飯食いに来いちゅーたんなら、そうしたってくれや。最近お前に会ってないちゅーて、会いたがっとったで」
平次は母親の顔を思い出しながら、返信を終えたケータイをしまった。
「あたしも工藤君家行く!」
この話はこれで終了にするつもりだったのに、和葉が急に言い出した内容に平次は目をむいた。
「なっ!アホ言うな!おかしいやろ工藤ん家に二人で泊まりに行くとか!」
「何で?蘭ちゃんも呼べば変ちゃうよぉ!大人数のが楽しいやん!」
「おまっ、迷惑な女やのぉ。ダメダメ絶対アカン!」
「何でよ!じゃあアタシから工藤君に頼んでみるわ!ケータイ貸して!」
平次は多少怯みながらも、良い嘘を閃いたので普通を装って口を開いた。
「お、そうやった。言い忘れとったけど、今回は観光ちゃうねん。頼まれとった事件のデータ持ってって、あっちの事件との関係性を二人で推理するんや」
言外にお前は邪魔やねんぞ!と匂わせると、推理と聞いて和葉は露骨に嫌な顔をした。
「せやった工藤君も推理オタクやったわ・・・しゃーない、今回は諦めたるわ」
和葉は悪役のような捨て台詞を吐いて、しょんぼりと立ち去って行った。
「ふー危ない危ない」
平次は机に倒れ込みながら、男らしい眉をぎゅっと寄せた。
「しっかし何で・・・」
あんなに工藤の家について来たがる和葉も理解しがたいが、嘘までついて和葉がついて来るのを阻止しようとした自分の行動も少し不可解なような気がする。
「やめやめー!久しぶりに工藤に会えるんやから・・・おっ新幹線予約せんと、あと学割証もらってこよ」
一転してウキウキとした気分で平次は立ち上がった。