文V

□甘えたがり
1ページ/2ページ


「宍戸、お疲れやなー」


テニスコートから引き上げてきた忍足は、着替えも半ばにソファーで寝てしまっている宍戸を見つけて声をかけた。


「めずらしーな。ジローじゃなくて亮が寝てるなんて」


忍足の後ろからぴょこっと出てきた向日も声をかけるが、宍戸は俯いたままである。


宍戸は座ったままの格好で寝ていて、しかも制服のシャツにやっと腕を通しただけ、という状態だった。


おそらく着替え中に睡魔に勝てず撃沈したのだろう。


「何だ宍戸、寝てやがるのか?さっさと着替えて帰れ」


最後にコートから引き上げてきた跡部にキツイ口調で言われて、宍戸はやっと微かなうめき声をあげて身じろいだ。


「いくら試験が近いゆーたかて、宍戸、最近がんばりすぎやって」


幾分か心配そうに宍戸を気遣う忍足の言葉を聞いて、跡部が口をはさむ。


「お前、『勉強と部活の両立ができないなんて激ダサ』とか言ってなかったか?

試験発表前にこのザマとは笑わせるじゃねーか」


「うっせー」


嫌味を言う跡部にかろうじてそれだけを言い返し、宍戸は眠気を払う様にのろのろと首を振った。

全開だったシャツのボタンを留め始めるが、宍戸の手つきはおぼつかない。


「ねみぃー」


ネクタイを締める段になると、宍戸は大きく舟を漕ぎ始め、再び夢の世界へと行ってしまいそうだった。


「亮、ホントに大丈夫か?家まで帰れねぇんじゃねーの?」


心配半分からかい半分の向日にのぞきこまれ、宍戸は眠そうな顔を上げた。


「大丈夫だって」


向日に何とかそう返しながら、宍戸はぼんやりと入口の扉に目を向けて、次いで短く一言。


「長太郎」


と呼び付けた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ