文V
□番犬
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今日は珍しく家から遠い河原沿いをランニングする。
もちろん宍戸に会えるかもしれないという下心からだ。
ここが宍戸の家から近く、宍戸の気に入りのランニングスポットの一つだということは、すでに向日から聴取済みだ。
今日は部活がないので自宅で優雅に過ごしていたが、ふと宍戸に会いたくなってしまい、トレーニングも兼ねて宍戸が良く訪れるというランニングスポットまで走ってやってきた。
なぜか俺には必ず宍戸に会えるという確信があった。
「あれ?跡部じゃねーか」
ほらな。
俺は自分の先見の明に満足しつつ、こちらに向かって走ってくる宍戸を見た。
宍戸はジャージ姿で犬を二匹つれていた。
「珍しいですね、跡部部長がこんなとこで走ってるなんて」
大きい方の犬が俺に噛みついてくる。
「まぁ、気分転換だな。お前らは特訓中か?」
「ちげぇよ、犬の散歩がてら走ってたら長太郎とたまたま会って一緒に走ってただけ」
宍戸はさっきから俺に吠えまくっている小さい方の犬のリードを引っ張りながら答えた。
俺はちらっと犬を見下ろす。
ちょっと怯んだようだが、唸るのを止めない。
まぁ、飼い主が宍戸だから仕方ない気もするが。
にしても、どいつもこいつも犬の分際でこの俺に楯突くとはいい根性だ。
「ここから跡部部長の家までかなりありますけど、早く帰らないと日が暮れちゃうんじゃないですか?」
犬どもは俺を早く追い返したいらしい。
小さい方の犬も隙あらば俺の足を食い千切ろうと狙っている。
さすがに番犬が二匹もいちゃ分が悪い。
宍戸の顔を見れたことだし、今日はこのくらいで満足して退散するか。
「そうだな。じゃあな」
俺がくるりと背を向けると、犬どもは静かになったが、急に宍戸が呼び止めてきた。
「マジでお前の家からここまで走ってきたのか?無理じゃね?」
振り返るといやに真剣な眼差しとぶつかったので、俺は唇の端を上げて笑った。
「あーん?確かに遠いが・・・俺には丁度良い距離だがな」
宍戸は何やら難しい顔で黙りこんだので、俺は番犬たちがうるさく吠え始める前に走り出した。
次の週の部活が無い日。
俺はまたも宍戸に会いたくなってランニングに出かけることにした。
今日も宍戸に会える予感がしている。
俺は庭で軽くストレッチをして門を出たところで驚いて立ち止まった。
「宍戸、じゃねーか・・・」
こんなに早く予感が的中するとは。
「よぉ」
ジャージ姿の宍戸は汗を光らせながら片手を上げた。
いつも以上にしかめっ面で無愛想だった。
「持久力上げようと思って、ランニングコース長くしてみた」
どうやら無愛想なのは照れ隠しのようだ。
宍戸のくせに、可愛いじゃねーの。
犬も連れずに俺様の家にやってくるなんて、どうなるか分かってんのか?
俺の時はいいが、頼むから他の奴と会うときは番犬を連れててくれ。