短編
□思慕
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「あ、ジミー君、土方いる?」
「旦那、山崎です。副長なら自室にいますよ」
「仕事中?」
「そろそろ一段落着く頃だと思いますよ」
「そっか、ありがとね、ジミー君」
「山崎ですってば、もう」
山崎と軽く話をしてから、銀時は土方の自室へと向かった。
付き合い始めてから約一ヶ月。土方の仕事が忙しく、中々会えない日々が続くも、銀時は幸せを感じていた。
「土方、いる?」
土方の部屋の前で、念の為確認をとった。
「あぁ、入っていいぞ」
襖を開ければ、微笑んで土方は迎えてくれる。
「悪いな、もう少しで片付くからちょっと待っててくれ」
「うん、ゆっくりでいいよ。にしても暑いな今日」
ぱたぱたと銀時は手で顔を扇ぐ。
「あぁ、これでも使え」
手渡されたのは紺色のタオルだった。
「汗でも拭いとけ、ないよりマシだろ」
「うん、ありがとう」
再び机に向かい書類整理を始めた土方。その背中を銀時は見つめる。
(やっぱ、仕事してる時の土方はカッコイイな)
部屋には書類の上を走るペンのカリカリという音だけが聞こえる。
その音をずっと聞いてか、土方から貰ったタオルを握りしめながら銀時がうとうとし始めた頃、外の方から豪快な足音が聞こえてきて、襖が大きな音を立てて開いた。
「トシ!!仕事終わったか!?」
「あ、あぁ。今調度終わったところだ」
「そうか!!なら少しこっちの仕事を手伝って欲しいんだが・・・・」
「わかった、今行く。悪い銀時、近藤さんに呼ばれたから今日は無理になった。また次の時に来てくれ」
その言葉を聞いた近藤が漸く銀時の存在に気が付いた。
「坂田来てたのか!トシ、坂田が来てるなら無理せんでいいぞ!」
「いや、でも・・・・」
「いいんだ、今日は俺もこの後用事あるし、土方は仕事頑張ってきてね。それじゃ、俺帰るわ」
「そうか、またな坂田!!」
銀時は自分のブーツを履き、屯所を出た。
本当は、銀時にこの後用事なんて無い。気を使わせないように銀時は咄嗟に嘘を言ったのだ。
土方は仕事を、近藤を優先としている。それは銀時も承知しているし、土方の大切な真選組だから、邪魔はしたくないとも思っている。
近藤と話している時の土方は凄く楽しそうだし、土方が幸せならそれでいい。
いいのだけれども、仮にも銀時は恋人で。
表では平気なふりをしていながらも、不安が募るのは仕方がない。
(土方はもしかしたら、俺よりも近藤の事を好きなんじゃないだろうか・・・・)
そう考えたら、胸がぎゅうっと苦しくなった。
(いいんだ、例えそうだとしても。近藤は、いい奴だし。だから、いいんだ俺は・・・・)
自分の中に生まれる一番になりたい、一番に愛して欲しいという気持ちを殺して、銀時は歩いた。