06/26の日記

22:02
在りし日の思い出
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「ああ、今日も雨か・・・。」
毎年、この時期が来ると思い出す。
気紛れな人だった。
我侭で、横暴で、そして大切な事は何一つ告げず。
自分勝手で、頑固で、そして・・・優しい、寂しい人だった。

「イヅルー今日も雨やし、結婚式しよか。」
「え?何ですか、いきなり。」
「そんなん、水無月やからに決まってるやろ。」
「は?何ですか、それ!」
「なんや、イヅルは知らんのか?           」
ふざけているのかと隊長をみるといつも顔に張り付いている笑みが消えていた。
「なあ、エエやろ。今日は急ぎの仕事も無いし、思い立ったら吉日や。」
声の軽さと裏腹にうっすら覗く瞳も一切笑ってはおらず、どこか張りつめた真剣さが垣間みれた。
嫌だとは言えなかった。
雨の続く日々の中、皆退屈していたのだろうか。
隊長命令に絶対服従の部下達は進んで式の準備を始めた。
松本さんを始め乗りの良い女性死神協会の協力で婚礼衣装と化粧の用意が整えられた。
決して少なくない人数で突然の式であったのに顔の広い京楽隊長のコネで高級料亭の予約が取れた。
他にも朽木隊長の一声で祝いの品や引出物も揃えられ、他の隊長達の協力もあり夕刻には婚儀の用意が整ってしまった。
「本当に出来るものなのですね・・・」
「せやろ〜。」
とはいっても本当に結婚出来る訳ではない。
寿命の長い死神の世界では同性婚は禁止されてはいない。
だがたとえ死神の隊長とはいえ流魂街出身者と下級で落ちぶれているとはいえ瀞霊廷生まれの僕では結婚は出来ないのだ。
流魂街から妻(愛妾)を持つ者はまだ許されるが、貴族の者が流魂街の者に嫁ぐ事は恥とされ禁忌なのだ。
それでも、たとえ形だけのお遊びだとしても、機嫌の良い彼を見ているだけで嬉しかったし、隣にいる事を許されただけで幸せだったのだ。

「大丈夫ですよ、隊長。僕は元気で生きています。」
あの日の様に優しく降り続く雨を見上げ、そっと囁く。

『今月結婚した花嫁は幸せになれるんよ』

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