02/11の日記

23:16
待宵草
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「市丸隊長、お誕生日おめでとうございます。・・・僕のこと恨みますか?」
産声を上げて母親の胸に抱かれる赤ん坊の姿を部屋の隅で見守った。
彼の人が隊長の生まれ変わりであること、今日この場所で産まれることはずっと前から知っていた。

『未来は一つではないわ。今が変れば未来も変るの。私達にみえているのはその可能性の一つなのよ。
そしてそれは本人が自分の意思で決めることなの。だから決して他人の未来を話してはダメよ。』
幼い頃から母に繰返し聞かされて来た。
死に行く未来を見る度に、その未来を変えられないかと死から逃れられないのかと試したこともあるけど、一度として成功した事はなかった。
この未来はあの人と会った時から、否、両親の墓の前で’朽木ルキア’さんに会った時からみえていた。
何度も変えようと、変えられないかと足掻いたけど、大きな流れは一人の力では変えようも無く飲まれ埋もれてしまった。
『市丸隊長、隊長は生まれ変わっても今の記憶を覚えていたいですか?』
覚えていて欲しいと願ったのは残される僕の我侭だ。
『そうやなあ。もしもう一度イヅルに会えるなら、覚えとってもエエな。』
きっと苦しむのに。
「ギュッとして下さい。」「もっとギュッとして下さい。」
何も知らないあの人が言った言葉を代償にして僕は魂に記憶を刻み付けた。

優しそうな両親に囲まれ笑う幼子の前にそっと歩みを進める。
成長と共に徐々に記憶は甦る。
その時、彼は僕のしたことにきっと気がつくだろう。
恨むだろうか。怒るだろうか。僕のことを・・・・・嫌うだろうか。
目の前で笑う彼の人に僕はみえてはいない。
霊力を持たず、だけど記憶だけを継いで生きることは辛く、優しいこの人を苦しめるだろう。
誰にも相談出来ずに悩み、傷つくだろう。
それを知っていても僕は止めることが出来なかった。
触れられないと知っていてもそっとその手幼い手に両手を重ね跪く。
「ご免なさい。でも許して下さい。僕は貴方を忘れません。ずっと待っていますから。」
この世界での生を終えて貴方が再び尸魂界に戻る日を。

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