06/12の日記

21:58
遣らずの雨
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あれはまだ互いに気持を確かめ合い、付合い始めたばかりの頃。
「そろそろ帰るか。遅くまで堪忍な。今日はごちそうさん。」
「いいえ、そんなこと・・・あのっ!」
「ん?なあに?」
「いえ、・・・・・なんでもありません。」
互いの気持は確かめてはいたが、その頃はまだ健全な、付合いと呼ぶには可愛らしいものだった。
もう一歩踏み込んだ関係にと望みつつもイヅルは引き止める事が出来ずにいた。
笑顔で振向き、イヅルの言葉を待つ市丸に喉元まで出掛けた言葉を飲み込み俯いた。
「そうか。ほな、さいなら。」
俯くイヅルは気付かなかったが一瞬残念そうに息をついた市丸が、カラリと扉を開けると突然、土砂降りの雨が降り出した。
驚き空を見上げたイヅルに市丸が耳元で囁いた。
「遣らずの雨やね。傘は持って来てへんし。イヅル、どうしよか。」
「・・・雨が止むまで居て下さい。」
にんまり笑う市丸の袖を引き、俯いたまま顔を真っ赤に染め小さな声で誘った。

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