拍手文庫

□ほんの少しだけ…
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「おかえり」

「……ただいま…」



さすが全ツの最初にして嵐予報。公演後の時間の流れが読めなくて、結局トウコさんはウチの家で待っててもらう事にした。
予定通り幕は上がり、公演も順調だったしさっくり上がったのはいいけど、気を張っていたのか予想以上に疲れていて、自分を立て直す為には移動時間一人だったのはやっぱり正解。

待っていてくれたトウコさんは、ソファーからゆっくりと立ち上がり優しく抱きしめてくれた。


「…ほんまは行きたかってんけど、昼間の用事が抜けれんくて」

「そんなこと!…ええんです、こうして会いに来てくれただけで十分満足してますから」


そっと腕を緩めて小さなキスを一つ。


「…なんや久しぶりやし、妙に照れるな…」


またすぐに抱きついて来たトウコさんの髪が首筋を掠める。久しぶりでドキドキしてるのはウチも一緒だけど、それよりも安堵感の方が大きくて。
幕が開いた事で、変に気負っていた部分がすっきりしたせいもあるかもしれない。


「…なんかトウコさん、またキレイになりましたね」

「……はい?」

「女の子らしくなりましたね、って言い方もおかしいけど…なんや雰囲気が」


甘い感じがする。
舞台は観に行ったし楽屋でも会ったけど、それはどうしてもオンのトウコさんであって、完全にオフの今とは少し印象が違う。


改めてゆっくりと顔を見ようとしてふと気付いた。


「ああ!今日スカートや!」

「……いまさらソコかい」


ヒラヒラと柔らかそうな、膝丈のシフォンスカート。濃い紫色のそれは、少しだけラメが入っていてキラキラしていた。
トップスは触り心地のいいベージュのカーディガン。なんだか女性らしい。

ちゃんとお化粧もしているから、余計にそう見えるのかも。


「ほら、お腹空いてないん?明日も早いんやろ?」

「そんなに早くもないんですよ。お腹は空いてますけど…でもあんまり食欲ないんです」

「チエが!?食欲ないって有り得へんやろっ!」


…その言い方はあんまりだと思う。
これでも繊細なんですよーだ。

なんだかいっぺんに気が抜けた。
あまりにも今まで通りで。
ついさっきまで一緒の舞台にいたのではないかと錯覚すら起こしてしまいそう。


「…さっき適当にお惣菜買って来たから、少しお腹に入れて、早くシャワー浴びて来たら?」

「えー!もっとくっついてたいー!」

「アホぬかせ!さっさと風呂入って来い!」





せっかくいい雰囲気だったのに、ウチはあっと言う間に風呂場に追い立てられてしまった。





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