ひだまり喫茶店
□蜂蜜色の少女
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一瞬、何が起きたか解らなかった。
ただ理解できるのは、蜂蜜色の髪をした少女に腕を掴まれ、建物の中に引き込まれた事だけだ。
「…大丈夫?追われてたみたいだったから…」
「…え?…あ、あぁ…」
瞳は優しい夕焼け色。暖かな光を感じさせる。
「怪我してる…。ちょっとそこの椅子に座って待ってて?」
「…あ…っ」
待ってくれ。と言う前に、少女は奥に消えてしまった。
どこか不思議な感じのする少女だった。
彼女は片手に救急セットを持って来た。
「お待たせ…傷を見せて?」
初対面の人に裸(勿論下は脱げない)を見せるのは気が引けるが、とりあえず上着を脱いだ。
「滲みるけど我慢してね?」
「…っ、あぁ…」
数分も経たない内に手当ては終わった。
随分と手慣れてるんだな、と呟くと、彼女は柔らかく微笑んで「器用なの」と言った。
「そういえば、ここは…?」
「あぁ、ここは喫茶店よ」
だから珈琲の匂いがしたのか。モダンな雰囲気も、こだわりがあるらしいアンティークの数々も、悪くない。
彼女はここでバイトでもしてるのだろう。
「今、珈琲出すわ。飲める?」
「飲めるが…」
「今日はサービスだから、お金は取らないからね」
彼女は悪戯っぽく笑うと、準備に取り掛かった。
俺はぼーっとその様子を眺める。お湯の沸騰する音だけが、この空間に満ちた。