小説
□‡[再び]へ至る.
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「セミロングの君がカナエちゃんで、ショートの君がヤコちゃんか、うん、了解」
・・・髪型で区別するってありなの?
「…あれ?ヤコって名前どっかで聞いたようなぁ…」
うわっ、きた!
私達の名前を教えたのは勿論叶絵だ。
そして連れられて来た友達が髪型を付け足して反復した名前に、長身の彼が反応を示し始めた。
いいよいい!
無理に思い出さなくていいからそのまま記憶の底に沈めといてくださいッ!!
「えっと確かぁ…「あっあの!」
私はテーブルにあったマイクをとっさに差し出しながら、何かを思い出しかけている彼の思考を遮った。
「え、な、なに?」
「い、いえ…こうしてるのも時間の無駄だし、何か歌って欲しいなぁなんて…あははは」
「へー…もしかして拒否られてんのかもと思ってたけど、良かった」
うん、完全に拒否ってましたし、今でも充分に拒否りたいです・・・・
「もうジャンジャン歌っちゃってください!何入れます?」
「あ、悪いねカナエちゃん。んじゃ俺戦隊モノ制覇目指すわ!」
「………え」
仕切る癖が抜けてない叶絵が、リモコンを片手に、本当に場を盛り上げ始めた。
“女子高生探偵、桂木弥子”
この名前をメディアが最後に取り上げたのはいつだっただろう・・・
シックスが起こしたあの一連の事件で、警察に陰で捜査協力しているらしいという、憶測だらけの記事が載った雑誌もあったらしい・・・
でもそれは、私の知らない所で、笛吹さんが揉み消しに一役買ってくれたようで、
それ以上のメディアの矛先が私に向けられる事は無かった。
だから、その記事が最後だったのかもしれない。
そしてそれから数ヶ月・・・あの悲惨な事件ですら人々の会話に上らなくなってきてるんだから、
あの後何の活動もしていない、いち女子高生の名前なんて人々の記憶から消えて当然だし、
そうなってくれて良かったと、私は思っている。
だって、あれは既に私一人の名前じゃないから・・・
「ヤコ」
「へ?…あ、なに?」
「ごめん、なんか少し…てか、かなりだけど、
あの彼、見た目と中身が食い違ってるかも…」
私の隣に移動してきた叶絵が、大好きなのであろう戦隊モノの主題歌を熱唱中の彼に視線を向けながら、呟いた。
「え…そう?最初から軽かったと思うけど…」
「まあ、多少軽くてもいいけど…まさか戦隊モノを上から順番に制覇するようなヤツだとは思わなかったわよ」
ああ、それは確かに。
「なんか、似てない?…彼」
「へ?誰に?」
「…え?ヤダあんたってば何も感じてないの!?」
「あ…こんな事ならカラオケ却下して王美屋にしてもらえば良かったなぁ…とは思ってた」
「感じる場所がまるで違うからそれ!
てかあんたの目って節穴?」
えーっと・・・なんで私怒られてんの?
だいたいあの人が誰に似てるって・・
「助手さんに似てるでしょあの人!」
・・・・は?
「誰ですって…?」
「だから、あんたの助手だった脳噛さんだってば!」
あ、やっぱり聞き違いじゃなかったのか。
ってことはなに?・・・・ネ、ネウロ!!?
「…まっ待って叶絵!一体どこら辺が!?」
「そりゃ髪と目の色はまったく違うけど、あの身長と見た目の整い具合は結構ビンゴだと思うんだけど…」
「・・・・・・・・」
私は叶絵が指摘した通り、マイクを握るあの人の髪と目の色を、頭の中でネウロ仕様に変換させてみた。
「あー…ごめん、やっぱり私にはよく分かんないや…」
てか・・・叶絵には悪いけどどこをどう変えて見ても、1_だってネウロになんてならなかった。
でも、客観的に見れる叶絵がそう見えたなら、あの人はネウロに似てるんだろう。
それでも私がそう感じられないのは、
色も顔のパーツも、私には関係なかったからなのかもしれない。
だって私の知ってるネウロは、この世界にアイツだけだから・・・・
「ぇ…そうなの?…せっかくナンパに乗っても当のヤコが何も感じないんじゃ意味無かったわ」
「…どういう事?」
「うん…まあ元々が余計なお節介なんだけどさ、
ヤコなんにも言わないけど、脳噛さんと離れて随分経つし、逢いたいんじゃないのかな…と思ってたから」
叶絵・・・・・
「でも、いくら今日が七夕だって言ったって、偽物じゃ意味なくて当然だよね…」
「あ、今日七夕!?」
七夕って言ったら7月7日だ・・・・
「ちょっとなにそれ!…七夕なんてイベントあると、いくらあんたでもちょっとくらいは感傷的になってんじゃないのかと思ってたのに…
それも忘れてたの!?」
「あ…いや…その、色々忙しくてつい……」
夏休み中日本を離れるつもりだから、その為にも出来る事は今のうちにやって置きたい・・・
私はそう考えていた。
「ヤコ…自分を磨くのは大事だけど、焦らないで頑張ろうよ。
脳噛さんを忘れるつもりがないなら、尚更ね」
そっか・・・少し焦ってたのかもしれない。
まったくの偶然だけど、7月7日にこの部屋にいる私は、もっともっとネウロを感じる事が出来たはずなんだ・・・・
「ありがとう、叶絵」
少しづつ頑張るよ。
アイツが磨いた私の名前を、胸を張って名乗れる日が来るように。
「ああもう遠慮はいらないわ!!」
「あ、か、叶絵!?」
そう吠えた叶絵が、未だに戦隊モノを歌いまくる彼等のマイクを取り上げると、CMで良く聴くGL●RIAという曲を熱く歌い始めた。
・・・なんか選曲といい、力の込め具合といい、焦りが滲み出てる気がするんだけど・・・・気のせいですか?叶絵さん。
「あれ?画面にノイズ出始めたんだけど…故障かなぁ」
「え?」
ネウロ似らしい彼が、見つめていたテレビモニターを気にし始めた。
本気でリフレッシュモードに突入した叶絵を除いた3人が、
ジジッという音を伴いながら、激しさを増していくモニターのノイズを食い入るように見つめた・・・・・・その時、
「「うおっ!!!?」」
数秒間画面に映し出された映像に、2人は奇声を発してソファーに仰け反った。
―――――――――あっ…
「な…なんだ今の!?」
「うん見た見た!!ヤコちゃんも見えた!?」
「え?…ううん、見えなかった」
「ウソ、マジで!?鳥みたいな顔で頭に角が生えてたヤツがなんか喋ってたろ?」
「ごめん、私まばたきしてたのかも…」
「特撮かなぁ…にしちゃ妙にリアル過ぎるよ」
「・・・・・」
あれは、私達と同じ生き物だよ・・・・
魔界のね。
「ちょっとヤコどうしたの?…あなた達この子になんかしたんじゃないでしょうね!?」
既に通常の映像に戻ってしまっているモニターを見つめたままで、私の眸からは大粒の涙が溢れていた・・・
「へ?うわ…ヤコちゃん俺ら何もしてないよね!?
それよりカナエちゃん、さっきモニターに「それよりってナニ!?」
…ネウロ
ちゃんと聴こえたよ。
『戻るぞ‥ヤコ』
うん、分かってる。
喩え一瞬のニアミスでも、私はしっかり受け取ったから。
この777に起きた奇跡はきっと・・・・
未来で再び、巡り来る!
End*
2010.07.06 後書き⇒