小説
□It's Not Over.
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「Asi soy bueno.…si.……gracias」
「うわっ!先輩それ衛星携帯じゃないですか…スゲェ!!買ったんスか?」
「いや…商店街の福引きで当たったんだ」
「ゲッ!マジで!?」
「そろそろ時間だ、行くぞ」
「え、ちょっとしまわないで見せてくださいよ!」
「…石垣、携帯出してみろ」
「あ、やっぱアレっスか、番号変わったんでしょ?赤外線準備OKですっ!」
「いや、買い換えやすくしてやるだけだ……メキッ「NOOOOOOOOOO!!!」
* * * * *
―――魔界探偵事務所。
ネウロ不在の状況下で、おじさんを巻き込んだ木を操る血族との死闘が漸く決着し、
私達は一応の平穏を取り戻した。
だけど、吾代さんにとってあの戦いは、私達以上に辛くて、やり切れないものだったはず――――
それでも、もう後ろを振り返る暇なんてない程、状況はどんどん流れてく・・・
私達が守りおじさんがもたらした情報は、笹塚さんの手に委ねられ、警察組織を動かす糧となってくれるはずだ。
だから今は、10日ぶりに「活動再開」に漕ぎ着けたネウロと、状況が動くのをただ待っている―――――――はずが・・・
「…え、今なんて…?」
「腹が減っては戦が出来ん」
「うん…だからじっとして魔力を蓄えてたんじゃないの?私達だけ働かせてさ」
ネウロは、既に脱ぎ捨てた魔力充電用のストールを手に取り、話を続ける。
「これのどこに味があり匂いがあるのだ?」
「…いやまあ、そりゃないだろうけど…って、あ」
10日間お世話になり尽くしたはずのストールを、無造作にトロイの上へ放った。
「気力が湧かんのだ…だがこの状況下で余計な魔力の消費は極力抑えたい。
よってヤコ、貴様が謎を探してこい」
「うっ…」
ネウロの中指が、刺さりそうな程至近距離で私を指す。
「ちょっと待ってよ、あだぁっ!!」
その指を咄嗟にせき止めた私の掌に、何かが刺さった。
…うん、せき止めといて正解だったよね。
「き、気持ちは分かるけどどうやって探せっての?
謎なんてその辺に落ちてないし、落ちてたとしたって私になんか見つけらんないよ!
てか私だって少しぐらい休みた「ほう…次の戦いも貴様らのみで乗り切るのだな?」
・・・・はい?
「まあ戦いに吾代分の穴が空いたが、その穴には笹塚の部下・・・」
「え…等々力さん?」
「いや、男の方だ」
そっち!?
「それでも詰めて塞いでやる。精々頑張れ」
「マイナス要因を詰めるな穴がデカくなるわっ!!」
…冗談じゃないよ。
やっとの思いでスリ抜けてきたってのに、より太い死亡フラグを立てないでください!
「嫌なら我が輩の腹を満たす努力を惜しむな」
「ギャッ!!」
力の戻った掌に頭を掴まれ、そのまま出口へと放り投げられた。
私の身体は否応無しに事務所から排除され、廊下に転がった・・・
「…ィっつー…てか今自動ドアになってたよね?」
「バカを言うな、我が輩はそんな横着者ではない。ガチャッ!」
声遠いよ!
なのに鍵閉まったし!!
どう考えても遠隔操作以外の何物でもない。
でも・・・仕方ないか。
「イタタ…しかし何で私の骨って折れないんだろ…カルシウム取りすぎかな」
理不尽な疑問を口にしながら立ち上がり、軽く服の埃を払い落とす。
味わいたい気持ちは私にも解る・・・
吾代さんが入院中で、望月さんの所の謎も貰えないんだから、私が探すしかないんだよねぇ。
それに、これ以上ゴネててアイツに魔力の無駄遣いさせたら、ホントにフラグが立っちゃいそうだ。
ネウロの無茶な要求と自分の感情の折り合いを付けると、私は既に暗くなった街へと歩き出した。
* * * * *
―――謎どこ?てかどの人が謎持ってんのよ・・・
事務所のビルを出て30分・・・私は早くも途方に暮れていた。
謎探知機がついてるネウロ以外に、謎なんて嗅ぎ分けられるわけがないし、
そもそも嗅ぎ分けられるのなら、避けて通りたいです。
私は何の目標も持たない足を止め、自分以外の世界にぐるりと視線を這わせた・・・
行き交う車の流れと、肩口スレスレを通り過ぎていく人間の群れ―――――
この全てが悪意なのかもしれない。
私には見えなくても、本人すら気付いていなくても・・・・
だからネウロは、可能性を求めて全てを護ってるんだ。
その中に必ずあるはずの、究極の謎に辿り着く為に・・・・ん?
あれ?
何でネウロは究極の謎を食べたがるんだっけ…?
究極の謎というキーワードが、思考の方向性をネジマゲ始めた。
…ああそうか。
私は思い出した理由を反復しつつ、最早散歩としか呼べそうにない謎探しを再開する。
魔力の尽きない身体になれて、満腹になれて、二度とお腹が空かない身体になれるからか。
でも、それでいいの?
例えば・・・
私が満漢全席を食べられたとしよう。
それはきっと凄く美味しくて、栄養も満点で身体にも良い至高の食べ物なのかもしれない。
けど・・・それでも私はやっぱり、B級グルメだって捨てられないっ!
あれはあれで美味しいんだ。駄菓子屋の10円のガムだって、忘れた頃にまた絶対食べたくなるんだよ。
どれもこれも、全ての味が懐かしくて美味しい・・・
きっとネウロにだってあるよね、そういうの。
じゃなきゃ…『気力が湧かない』なんて言うはずがない。
そんな大切なモノ全てと交換しても、ネウロは究極の謎を、本当に食べるつもりなんだろうか・・・・?
「お…弥子ちゃん?」
「へ…?」
不意に街角から飛び出した記憶に新しい声は、私の捻れに捻れた思考を一瞬で引き戻した。
・・・やった。
やったよネウロ・・・
見つけたよ謎!!(に、一番近い人を)
*