小説

□¶歯止めの輪郭/R18.
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「ヤコ、ドライブに行くぞ」

吾代のミゼラブル号に改造を施していたはずのネウロが、不意にヤコを誘った。

「…ドライブ?」

当初著しく魔界仕様に変形させられていた外見は、ヤコの頑なな反対により元の姿へと戻されてはいたが・・・
その中身の得体の知れなさを思うと、ヤコの心中はかなりの勢いで穏やかではない。


「大丈夫なの?…ソレ」

「心配はいらん、地上の基準を踏まえた上での改造に留めてある」

「・・・例えばどんな?」

「説明するのは面倒だ、その身体で体感してみろ」

―――ガシッ、カチャッ――――ブンッ!
「ぎゃふっ!!」―バタン!―――

ネウロは訝しがったままのヤコをミゼラブル号の車内へ放り込むと、
自分は運転席に陣取った。


「さて、出掛けるとするか」
「ちょっとネウロ!だいたいドライブってどこに行くつもり!?」

車内にしこたま打ち付けた顔を押さえながら、ヤコには予想の及ばなかった行き先を訊ねる。

「ホームセンターだ」

「え…ホームセンター?」

(なんだ、近いじゃん)

ヤコは行き先が良く見知った場所であった事と、この場所から10分程度である事にホッと胸を撫で下ろした。


「で、何を買いに行くの?」

「コレのパーツだ」

「・・・は?」

「パーツが足らんのだ」

「因みにお聞きしますが・・・何のパーツ…?」

ヤコの全身から嫌な汗が噴き出し始めた・・・

「解除したリミッターが戻らん」
「な!!!?」

ギャギャギャッ!っと
タイヤがホイルスピンする程ネウロはアクセルを踏み込むと、
ミゼラブル号はイキナリそのボディの限界を超えた速度を叩き出された。

「×@あ%Q#■ふっ…ぐぎっ!!!!」

「…3000CCのエンジンを積み直し、リミッターを外しても所詮はこの程度か、ツマラン」
「ツマンナヒことあるか舌噛んらじゃん!!!」
「フハハッ、それは貴様の口の締まりが悪いせいだ。原因は生ゴミの詰め込み過ぎだろう」
「減らず口はいいからさっさと何とかしてよもう!!」

目的のホームセンターはその速度のお陰で既に目と鼻の先だった。
(あと数分我慢すればいい!)ヤコはそう自分に言い聞かせると、
四肢を突っ張った格好でその速度に耐えていた。


・・・・が、
その時ミゼラブル号の背後から、けたたましいサイレンの音が響き…ヤコの後頭部に突き刺さった。


「・・・う…そ」

「フム、高速機動隊のベンツか…運が悪かったな」
「悪いのは運じゃないからアンタだから!!!」

「だが捕まってやるのも面倒だ…ヤコ、歯を食いしばれ」

「…へ?」
「フリ切るぞ」


―――ドンッ!!
という音と共に、ミゼラブル号は炎を噴いた・・・・・

(ジェッ…ジェットエンジン!!!!?)

「万が一の事態を考慮して積んではみたが、これまで試せるとは何とも好都合だ」

「・・・・・・」


ヤコは一瞬にして通り過ぎた目的地を、恐怖で潤んだ視界の隅で見送る・・・

その後、高速機動隊のベンツからの要請で、緊急配備されたのであろう警察車両が、
各ポイントから続々とカーチェイスに加わり、ちょっとした大捕り物の様相を呈したが、
ジェットエンジンを搭載したミゼットは、ネウロのコントロール下で無事逃げ切る格好となった・・・・・らしい。




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