小説

□¶[Full gravity]※R18
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大騒ぎをして無駄に暴れて叫んだせいで、今や喉の渇きはMAX状態。
その口内には唾液の存在すらなく、カラッカラに渇いた喉を本能の言葉がこじ開ける。

「もうダメ…喉渇いた…干からびる」

「ではそうなる前に、オアシスを探せ」

弥子は振り向く気力もなく、うなだれたまま返事を返す。

「…どこにあんのよそんなモン」

「我が輩の腕の中だ」
「冗〜談…へ?」

背後から落ちてきた熱が、弥子の冷えた身体を包み込む・・・・・

「ひっ!ちょ…」

青い熱は華奢な身体を抱き上げると、そのままツカツカと歩き出した。
弥子はネウロの視線の先を窺う・・・・・

「ネネネネウロどこ見てんの!?」

ネウロが見定めた先、そこには薄い布が掛けられたベッドがあり、
弥子は当然の如く・・・

「ぎゃふんっ!」

と、その上に落とされた。

弥子分の重量がスプリングにかかり、跳ね上がろうとする反動を、ネウロの重量が押さえ込む。

二人分の体重を受け入れたベッドは、ネウロの動きに合わせてキシリと音を立てた。

ネウロは今、仰向けに横たわる弥子の上で、その両肩を押さえつけている。
真上から注ぐ熱の籠もった視線は、弥子により一層の危機感を募らせた。

「肩…痛いんだけど…放してくれない?」

緑の螺旋が降りてくる。

「なんで押さえつけるの?これじゃまるで…」

“レイプされるみたいだ”弥子は言葉にせず、心の中でそう続けた。

それでも緑は降りてくる。

弥子は顔を背ける事も、瞬きすらせずに・・・・
降りくる緑をただ見据える。











初めて
唇が・・・・触れた。








「…?」

「・・・・」

「!??」

「・・・・」

「んぅっ!?んんんんん!!!」

ネウロの唇から何かが注ぎ込まれ、弥子の口内になみなみと溜まる・・・・

「飲み込め、消毒済みだ」

弥子の喉がゴクリと音を立て、身体の欲求を満たしてゆく。
少しばかり溢れてしまった滴は、シーツに辿り着く前にネウロの舌が舐めとった。

「…本物のオアシスじゃん、ネウロ…」

「当然だ」


弥子は心臓の痛みに、眉を寄せて俯いた・・・


「・・・・ネウロ」

「なんだ」


「・・・ごめんね」


この部屋を弥子が訪れてからどれ程の時間が流れたのか。
ネウロに力ずくのつもりがあったなら、弥子の身体はとうにネウロのものにされていたはずで・・・
未だ無事でいられたのは、“待っていてくれた”からに他ならない。
弥子はこの時漸く、ネウロの感情に自分から触れた気がした。


「…フン…まだ飲むか?」

「うん、まだ足りない」


ネウロは弥子の意志を確認すると、ペットボトルに詰めたこの国の水を再び口に含み、
今は潤いを取り戻した弥子の口内へと流し込む。

ネウロの身体が浄化した水は弥子の身体を潤し、
その度に交わされる口づけは、甘さと刺激を含んで、弥子の感情に流れ込んでゆく。
それを数度繰り返し、弥子の身体が水分で満たされた頃、水も丁度底をついた。

「・・・・・・」

「…ネウロ?」

空になったペットボトルを、ネウロは指で弾いて床に飛ばす。
干からびたボトルは・・・乾いた音を響かせて転がった。


「さてヤコよ…与えるものは尽きてしまったぞ。
それでも我が輩に、唇を許せるか?」

横たわる弥子の隣に腰を下ろしたネウロが、顔を近付ける事もせず質問を投げる。
改めて開けられてしまった身体の距離が、3年前の日常を弥子に思い出させた。

虐待で身体は触れても、互いの心にまでは触れずにいた日々。
それでも寂しさを感じずにいられたのは、感情が幼かったから・・・

ネウロは理解が及ばない故に。
弥子は気付けない故に。

少し手を伸ばせれば、ほら・・・互いは揺るがずそこに在ったのに。

もはや罪。
理解し、気付いてしまった今、互いに引き合わない事の方こそ無秩序を生む。
例えば・・・足らないモノを補い合う必要が完全になくなる時がきても、
進化した弥子はネウロ自身を求め…

「…ネウロが欲しいよ…ネウロだけが、欲しい」


感情を手にしたネウロは、弥子自身を求めればいい。

「我が輩の全てで、ヤコ…貴様のみを想おう」


それがこの二人の間の、最も自然な秩序になるのだろうから。

・・・そして差し出しあった手は、同時に互いを絡め捕る。



与える為に触れた弥子の唇に、ネウロは今求める為に口づける。
深く、より近く・・・

「…んっネゥ…」

その想いの深さは抱く腕の力強さに変わり、遠慮なく差し込んだ舌は、
邪魔するもののない口内で、弥子を求め出す。

ネウロの直情生は、その言葉通り真っ直ぐに弥子に向けられ、
激し過ぎる口づけはそのままネウロの固執の強さを表しているようで・・・
弥子は最早呼吸もままならない。
それでも、互いに喜びだけが募ってゆく唇を、自ら離す気にはなれなかった。
結果・・・
ネウロの背中に回されていた弥子の両腕は極限を迎え、力無くパタリと布へ落ちた。




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