小説
□‡引力は繰り返す.
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□YAKO SIDE.
「ちょっネウロ止めて!いい加減それ犯罪過ぎ!!」
「なにがだ」
「わ、私まだ16だしそれに、例え幾つだとしたって無理矢理ってのが犯罪だって言ってんの!!!」
「仕方があるまい、奴隷の進化が思わしくないなら、それを促す切欠になってやるのも主人である我が輩の務めだ」
「そんな事促されたくないってば!もうヤダ放して!!」
私の顔の真上にある緑の螺旋は、揺らぐ事もなく、その躯の下の私を見下ろす。
ここは事務所。
そして私は今、ネウロによってソファーに組み敷かれている。
そもそもこうなった切欠は何だった…?
…ああ、そうそう、数日前に関わった愛憎絡みの事件で、私が全く使い物になんなかったからだ…それでもネウロは謎を食べた。
…けど、もっと難解な愛憎劇に出逢ったら、その時は私が原因でみすみす逃がしてしまう事にもなりかねない…
そんな心配をしたんだろう。
だから、今こんな事になってるんだ。
…って、冷静に状況を分析してる場合じゃないよ!
どんな理由があったってこれが貞操の危機である事には変わりがない!
そうこうしているうちに、ネウロの唇は「黙れ」と威嚇しながら降下を始めた。
その到達地点が堅く結ばれた私の唇である事は、最早疑いようがない。
私の上にはネウロの躯。
その重みで足の自由すら効かず、二本の腕は頭の上にホールド状態で、
残りのもう片方の掌は今…私の顔を固定した。
これじゃもう顔を背ける事すら出来やしない!!
一瞬後に訪れてしまう衝撃に対して、条件反射的に身体は強ばり、瞼はキツク閉じられた……が、
覚悟させられた唇への衝撃は訪れる事なく、
代わりに、ネウロの助手声が耳に流れ込んだ…
「はい、桂木弥子魔界探偵事務所ですが」
……へ?
「捜査のご依頼ですか?ではご用件を伺いましょう」
どうやら間一髪のところで、ネウロの携帯に依頼の電話が入ったらしい…
やった!助かった!!
私はソロソロとネウロの下から這い出すと、一目散に事務所をあとにした。
冗談じゃないっての!!
愛情が何なのかも解ってない奴に、無理矢理初体験させられるとか有り得ないよ!
だいたいキスの数センチ手前で、携帯が鳴ったからってそっちを取るような奴なんだから、
一生かかったって愛情なんか理解出来るもんかっ!!
まあ…依頼=ご飯なんだから、気持ち的には分かんなくはないけどさ。
…って、
違うよそーじゃなくって!今の思考ちょいカット!!
それじゃまるで、優先順位が携帯だった事に怒ってるように聞こえない???
私がキスを待ってたみたいじゃん!?
ネウロから逃れる為に走り続けていた足は、ゆるゆるとその速度を落としていく。
…何で一方的に私が悩まなきゃなんないんだろ…
もういいや、どうせ明日になれば自分のした事なんかお構いなしで、
変わる事のない『ネウロの日常』を、押し付けてくるに決まってる…
私は完全に歩みを止め、呟いた。
「ネウロなんか…地上に来なきゃ良かったんだ」
…そうは言っても、食糧が無いんじゃ仕方がないんだけどさ。
それより何より、
アイツによって導かれた出会いがある…
それが私にとって大切なものになってる以上、あの存在を否定しきれないのも事実だ。
…新しい依頼は入ったんだろうけど、
現時点でなんの呼び出しも掛からないんだから、今すぐ戻る必要は無さそうだ…
さっきの依頼が恋愛絡みじゃない事を祈りながら、私はそのまま家路についた。
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