小説

□‡希望.
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「流石に魔人だな、あれだけの戦いの後だってのに無傷か」

「いえ、無傷とは言いがたいですが、日常生活をこなすくらいなら問題はありませんよ」

「…魔人ってのは便利なもんだな」


私は今、これまででは考えられないような会話を耳にしながら、2脚のティーカップに、コポコポとお茶を注いでいる。
一つは自分用、そしてもう一つは不意にここを訪れた、笹塚さん用に…

「はい、どうぞ笹塚さん」

「急に来て悪かったな、弥子ちゃん」

「ああ全然、笹塚さんならいつ来ても大歓迎!…それより、体調戻ったんですね、良かったぁ」

「ん?…ああ、だいたいな」

テラって人との戦いで危うくなったネウロは、笹塚さんに自分の正体を明かした。
そしてその後、笹塚さんはネウロの指示で動き、私達と行動を共にする事となった。
吾代さんの古い知り合いだった血族の一人と、死闘を繰り広げる形になった時も、
この人が居てくれたからこそ乗り切れたんだ。
きっと…あの時、あの場所にいた誰一人が欠けても、あの結果には繋がっていなかっただろう…私は今でもそう思っている。

でも、吾代さんはその戦いで病院送りになり、
笹塚さんも体調不良になっちゃってたけど、それなりに元気になったみたいで、本当に良かった。

「弥子ちゃん達のお陰で、有力な情報源を手に入れられた事だし、俺もちょっとは頑張らないとな」

「やだなぁ…笹塚さんは頑張り過ぎるくらい頑張ってるじゃないですか」

…ああ、情報源って本城博士の事か。

「それで笹塚刑事、わざわざここへ遊びにきた訳ではないのでしょ?」

「…流石に察しがいいな、ちょっとアンタに聞きたい事があってね」

 え…ネウロに、聞きたい事?

と、不意に入り口のドアがカチャリと鳴り、新たな来客を告げた…

「こんちわー」

開き掛けのドアから、まず進入してきたのは声。
そして次に、押し開かれたドアから、身体が躊躇無く姿を現した。

「あ、ヒグチさん!」

「ヒグチ?」

私の声に、笹塚さんが反応を返す。

「げっ!笹塚さん…ヤバ…」

「…勤務中のおまえがここに何の用だ?」

「え…あ、いや、ちょっと近くまで来たから、桂木元気かな〜と思って…」

ヒグチさんは、HAL事件でネウロの正体を知ってから、度々事務所に遊びに来るようになっていた。
だから今日も、その何時ものノリでここに着たんだろう。

…って、あ…
そーいやこの二人って…

「そーだ!いけね、俺笛吹さんに呼ばれてたんだっけ!…そうゆう訳でやっぱ署に帰…」
 「あ、ヒグチさん待って!」

事務所に入り掛けの身体を引き戻すように、逃げようとするヒグチさんを、私は言葉で塞き止めた。

「丁度良かった、今紅茶入れたとこだから、ヒグチさんも飲んでいってよ」

「え、でも…」

ヒグチさんは戸惑いの表情を浮かべ、チラリと笹塚さんに視線を向けた…
言いたい事は解ってる。
『俺が居ちゃマズイだろ?』
再び私に向けられた視線は、確かにそう問いかけてきた。

「大丈夫だよ、“仲間”は多いほうが心強いもん。ね、そーでしょネウロ?」

私はネウロに視線を向けた。

「…ふむ、確かにな」

そしてネウロもそれを否定しなかった。
ネウロにとっては手駒なんだろうけど、貴重な存在である事に代わりはないはず。

「桂木…もしかして、笹塚さんも…?」

「うん、まあ…」

私は苦笑しながら答えた。

「マジでぇ!!?」

「な…なにが?」



* * * * *


「…と、まあそんな経緯で、彼にも僕の正体バレてまして」

「…成る程な、あの空母の事件の時、既にバラしてたって訳か」

笹塚さんは、ヒグチさんを心なしか睨んでいる…

「やっ、だって相手は魔人だし、口外したらこっちの命の保障がないじゃん…」

「うん!ヒグチさんは悪くないよ、諸悪の根源は全部コイツなんだから!!」

私がネウロを指し示すと、一同の視線がネウロに向けられた。

それでも当の本人は、突き刺さる視線なんかどこ吹く風って感じで、惚けた表情を浮かべ、所長椅子に陣取っている…

「…まあ、その辺りは不問に附しとくよ。あの後捜査資料は見たが、“これと言って”不審な点は無かったし…なぁヒグチ?」

「え!?ああ…まあ、ははははは…」

「あなたが大人な方で助かります、笹塚刑事」

「じゃ、じゃあ話も纏まった事だし、二人ともゆっくりしていってね!」

「あ、そうだ、俺前からネウロに聞きたい事があったんだ!」

私がおかわりを入れる為に、ティーポットを持って立ち上がると同時に、ヒグチさんはいきなり高揚した様子で喋り出した。

「ヒグチさんもネウロに…?」

「そ、ネウロじゃなきゃ解んない事…つまり、魔界の話が聞きたい」




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