小説
□‡安心の比率.
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愛のイベントって…確か、魔界の繁殖期!?
『魔界にも、愛は溢れているぞ』
あの話…冗談じゃなかったの?
『皆それぞれに訪れる、愛のイベントだ』
…なら、ネウロも今、それに参加してるんだ…
未練なんて無いとまで言い切った場所に、あいつは、愛を求めに行ったんだ。
感情なんて解んないんじゃなかったの?
ああ、そうか…魔界だもんね。同族の感情なら解るんだ…
私の感情は解んないくせに。
渦巻く思考とは裏腹に、身体は固まっていった。
まるで、私にかかる重力だけが、乗算されているような…
そんな圧迫感に、身動きが取れなくなっていた。
そんな私を見かねたのか、あかねちゃんは再びマジックを握り、言葉を走らせた。
≪で、でもね、ネウロさんちゃんとここに戻ってくるって言ったから…だから絶対帰ってくるよ!≫
「 ………いつ? 」
≪ ……それは… ≫
私の短い問いに、また失速したあかねちゃんは…
≪ 答えて…くれなかったの…≫
…………………
「 私、バカみたいだ 」
≪…ヤコちゃん≫
言葉と共に溢れ出した涙は、ネウロが抉った傷口を、更にこじ開けていくように沁みた。
一人で浮かれて、ネウロに嘘まで吐いて…その代償がこれ?
地上のクリスマスなんて、あいつにとっては騒々しいだけの、くだらないイベントに過ぎないんだ。
…私は…手料理を食べて欲しかった…ただそれだけだったのに。
「 …あかねちゃん 」
≪ なに? ≫
「私、待っててもいいかな…ここで」
≪ え? ≫
「クリスマスプレゼント…渡したいんだ、どうしても」
≪…うん、それがいいと思う。だって…≫」
「 何? 」
≪私はここでずっと、一人きりになったネウロさんを見てきたの≫
「 あかねちゃん? 」
≪ネウロさんは魔界の人だから、ハッキリと気付くのはまだ先の事になるかもしれないけど…だけど、
これだけは言える。ヤコちゃんの事だけは、絶対に裏切ったりはしない≫
「 ………… 」
≪信じてあげて?≫
あかねちゃんの笑顔が、一瞬見えた気がした…
その言葉に、私は頷いて答えるのが精一杯だったけど、それを見て安心したのかあかねちゃんは、
≪ オヤスミ ≫
と、だけ書き残し、壁の中へ潜り込んでいった。
ねえ、あかねちゃんが見てきたそのネウロって…どんなネウロだった?
多分それを訊いても、答えてはくれないんだろうな…
私は、一人きりになった事務所で、ソファーに膝を抱えて丸くなる。
身体は依然として重さを増していた…
「…信じたいけど、無理だよ、あかねちゃん…」
このところの疲れと、今まさに受け続けているショックで、私は限界だったのかもしれない。
いつの間にか…夢をみていた。
―――私の眼前に広がるのは、見た事もない筈の魔界の風景で…
羽ばたくネウロが、その地に降り立った姿だった。
長い手足に、不思議な髪の色…魔界なのだから本性を晒してもいいはずなのに、何故か擬態のままだ。
その研ぎ澄まされたようなフォルムは…まるで、堕天使のよう。
綺麗……以外の言葉が見つからない。
男のくせに、私の100倍は色っぽいネウロ…
そんなあんたが本気になったら、落ちない相手なんかいるはずないじゃん。
深い深い翠の眸…その視線の先には誰が…
って、あれ?
翠の螺旋が近づいてくる…ズンズンズンズン近づいて…その長い指が、私の頭に添えられた。
―――ギリッ…
「あだだだだだだだ!!?」
「 起きろ、ウジムシめ 」
私の身体はソファーから引き剥がされ、痛みで暴れる足は宙を蹴った。
「 ネ…ネウロ!? 」
どのくらい眠っていたんだろう…事務所は既に、深く静かな闇に包まれていた。
「我が輩を待っていたのは褒めてやるが、寝て待つとはいい度胸だな」
闇に浮かび上がる、ネウロの口元が釣り上がる…
なんだろう…気持ちが悪い…
ネウロから漂う何かの気配、これは誰かの残り香か何か…?
「 …放してよ 」
「ダメだ、我が輩はこれから貴様に、仕置きを与えねばならんのだからな」
仕…置き?
何のために?
私…何をしたの?…あんたに。
「勝手な事ばかり言わないでよっ!!」
…ムカムカする。吐きそうなくらい気持ちが悪い…
「そりゃ、ドコで何しようとあんたの勝手だけど…
誰かに触れた手で、私に触んないで!!」
「 ………」
ネウロは、キョトンとした顔をしている。
そうだよ…こいつには私の気持ちなんか解らない。
何を言っても… 何をしても… 私の手には入らない。
「確かに我が輩の行動が、我が輩の自由なのは当然だ…」
…その当然の自由すら、私にはくれなかったくせに。
「だが…“何か”に触れた覚えはあるが、“誰か”に触れた覚えはないぞ」
…こいつ、何言ってんの?だってあんたは…
「魔界の愛のイベントに行ってたんでしょ!?」
「 そうだ 」
ほら…やっぱり。
「…なら、そこで誰と会って、何をしてきたってゆうの?」
…イヤだ、聞きたくないよ…
「発光虫と会い、ちょっとしたバトルの末に大量捕獲してきたのだが?」
「 ・・・・へ? 」
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