小説
□‡移ろう解釈に潜む.
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* * * * *
NEURO SIDE.
ここは、事務所から少し離れた路上。
薄汚い車が前方から走って来るのを目視する。
車は我が輩の前で停まり、その車と同等に薄汚れた過去を持つであろう男が、
窓ガラスを開け、顔を覗かせた。
「遅いぞ、吾代」
「いきなり呼び出しといて遅いもヘッタクレもあるかよ、こっちにはこっちの予定ってもんがあっ…ぐふっ!!!」
その小煩い口を靴底で塞いでやると、雑用は従順に黙り込んだ。
我が輩が、軋む助手席に陣取った辺りで、漸く鼻にティッシュを詰める作業を終えた吾代が、
性懲りも無く、再度その口を開いた。
「そういや探偵はどうした、テメー昨日…」
『明日は弥子を連れて、少し遠出する用事がある。よって、貴様は用無しだ。好きなように事件の資料でも漁っていろ』
「…つったはずだよなぁ、それが何で俺が呼び出されてて、とうの探偵がいねえんだ?」
「ヤコは約束とやらを取ったのだ」
「約束?…なんだそりゃ…、ようはアレか、テメーは探偵にフラれ…がはっ!!!」
「狭い車内は窮屈でかなわん。我が輩、30秒に一度は腕を振り回したい衝動に駆られてしまうのだ」
強力な裏拳をまともに食らった吾代は、蟹味噌よろしいその頭を、ハンドルに伏せて動かなくなった…
「車を出せ吾代、行き先は栃木だ」
「はああ!?化物テメー、どんだけかかると思ってんだ!!!」
「おお、ゴキブリ並みの生命力だな。…知っているか吾代?手加減はストレスを募らせる…
30秒が10秒になるのも、もはや時間の問題だ」
「…………へい」
これから我が輩が向かう場所、そこには二つの目的が存在する。
一つは謎。そしてもう一つは―――――――
「紫色が意味するものは何か、知っているか?」
「紫色?……坊さんかなんかか?」
「フム…、愚問だったな」
「!!意味わかんねえよっ!!!」
「まあいい、吾代、今回は貴様にも働いてもらうぞ」
「ああ?なんかに探りでも入れんのか?」
「それは貴様に任せるまでもない。文字通り、その身体を使って働いてもらう。貴様に似合いの肉体労働だ」
「肉体労働?」
「何せ出来の悪い奴隷が不在だからな、我が輩だけでは手がまわらん」
「…ふーん、ま、いつかみてーにまた迎えに来させられるよりはマシか…、仕方ねえから付き合ってやるよ」
「では、まず謎の元に向かうぞ」
* * * * *
YAKO SIDE.
頭の中のモヤモヤが嫌で、少し早めにお風呂を済ませた私は、
ガシガシとタオルで頭を拭きながら、部屋への階段を踏みしめる。
すると、2、3段上がったところで、微かなメロディー音に気付いた。
私は急いで部屋に飛び込むと、テーブルの上に置いたままにしていた、携帯を掴み取る。
…もしかして、ネウロ?
「…なんだ、叶絵か…」
叶絵からのメールは、私が出した、明日の合コンへの参加OKを伝えたメールへの返信で、
その合コンの時間と場所を詳しく示した内容だった。
…そんな文章を読んでも、心が躍るわけでもない…
それよりも、メールの差出人がネウロではなかった事で、私の嫌なモヤモヤだけが、更に積み上げられてゆく…
独りで…行ったのかな。
その言葉と共に、自然と記憶は事務所でのやり取りまで、遡り始めた。
“ようは謎を解きに行くだけでしょ”
“まあ、それもあるな”
………謎=それ。
…それ“も”?
あの時、私が流してしまったネウロの言葉。それはまるで、謎がメインから外されているような言葉だった。
…イヤイヤイヤ、ネウロが謎をメインから外すなんて、やっぱ考えられない…
でも、謎と同等の何かが…、旅の先にはあったのかもしれない。
「もっとちゃんと、話しを聞けば良かったなぁ…」
そうだ、それがいつものネウロの、くだらない思い付きでしか無かったのなら、こんな…
まるで罪悪感のようなモヤモヤは、味わわなくても済んだんだ。
そんな今更な考えが頭を占め、モヤモヤの上にイライラまで噴出してきてしまった。
“そうまでいうのなら、好きにしろ”
そもそも、ネウロは今間違いなく不機嫌なはず…、
そんなあいつからのメールなんて、来るはずないじゃん。
待つだけ無駄なんだ。
私は、無造作に携帯を閉じ、その場に放り出した。
こんな時は、独りでウジウジ考えてても、絶対にいい方向には行かない…
私は、気分転換を図るために部屋を出て、リビングへと向かった。
テレビを観ながらお菓子を食べ、眠くなるギリギリまでリビングで過ごすつもりで。
だけどその数時間後、その放置された携帯は何かを伝えるべく、無人の室内で鳴り響く。
そんな事に気付くはずもない私は、かなり遅い時間まで遊び呆け、睡魔と共にベッドに潜り込み、ものの数秒で意識は途切れた。
* * * * *
目覚ましは、鳴っていても気付かない事があるのに、携帯の音ってゆうのは何故すんなり耳に入るんだろ…
それは多分、単なる音だけじゃなくて、誰かとの繋がりを伝えているから…なのかもしれない。
携帯の着信音で目覚めた私は、既に朝である事を確認すると、昨夜から放置してあった携帯を手に取るべく、
眠い目を擦りながら、ベッドから這い出してゆく。
メールは叶絵からで、私への予定の確認のメールだった。
[逃げたら、倍返しで請求書送るからね!]
いくらなんでも、倍返しは無いだろう…叶絵。
苦笑をもらしつつ叶絵からのメールを閉じると、履歴に未読のままのメールが表示された…
あれ? ネウロ…?
その未読なメールは確かにネウロからのものだった。
昨夜、来るはずが無いと思ったとはいえ、携帯を放置してしまっっていた事実が、私の罪悪感をまたしても引きずり出し始める。
From ネウロ
Sub(non title)
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紫が意味するものは何か、述べよ。
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「…は? 紫…イモ?」
もう…、わけ解んないよ、ネウロ。
あまりに意味不明な、ネウロからのメールに落胆しつつ、今感じたままの紫のイメージを入力し、送信ボタンを押した。
私はその体勢のままで、ボーっとネウロからの返信を待つ……が、
先に放置したのは私なのだから、直ぐに返信なんか来るはずもない。
取り敢えず携帯を手放すと、私は出かける仕度に取り掛かった。
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