小説

□‡移ろう解釈に潜む.
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「あ、明日ぁぁ!?ダメだよダメ!そんなの絶対無理!!」

「一生ーーーっのお願いだってば!!ねえ何とか都合つけてよ、今回だけだからさっ!」

「叶絵だって知ってるでしょ?私がどれだけあの仕事に縛られてるか…」

…仕事にってか、ネウロにだけど。

「うん、判ってるよ。それを承知の上でこんだけ頭下げてんの!」

事務所に向かう為に急いで校門を出た所で、追いかけてきた叶絵に捕まり、
珍しくケーキを奢るからと言われ、私は王美屋に引きずり込まれた。

その叶絵が、今必死になって懇願している内容はと言えば、
言わずと知れた合コンのお誘いであるわけなんだけど…
彼女が今回これだけ必死になっているのには、訳があった。

「ヤコが来なきゃ始まんないんだってば!」

…どうやら、女子高生探偵桂木弥子と君も握手っ!…みたいな振れ込みで人数を集めちゃったらしい。
叶絵は拝むように手を擦り合わせ、かれこれ一時間も説得の姿勢を崩してはいない。
その姿が、まるでハエのその仕草に見えてきて、私は困り果てながらも、可笑しさがこみ上げてきていた…が、
そんな事を虫嫌いの叶絵に言ったら、本気でキレられそうなので、さすがに口には出さないでおく。

「脳噛さんだってさ、別に鬼じゃないんだから、ちゃんとお願いすれば一日くらい大丈夫でしょ?」

「…うん、鬼じゃないのは確かだね」

  魔人ですが。

「でしょ!?あのいつも礼儀正しい、笑顔の似合う脳噛さんだもん、大事なヤコ先生のお願いなら絶対聞いてくれるって!!」


「……甘い」

「…ああ、そりゃフルーツタルトをホール食いすりゃあ甘さも堪えるでしょうよ…」

違うよ…
甘いのはあんたの考えの方なんだってば叶絵!!!

「紅茶、もう一杯頼もうか?ヤコ先生っ」

「 …いい。ってか、その呼び方ヤメテ」

いやまあ、フルーツタルトを完食した後でゆうのもなんだけど、これ以上奢られたらマジで逃げらんなくなる!
さて…、どうやって逃げ出そうか。いつもなら、そろそろ呼び出しメールの第二波が…
と、まさに私が食い逃げよろしく逃げ切る策を巡らせているさなか、
私のバックから、聴き慣れたメール着信音が鳴り響いた。

ほらきた…

私は急いで携帯を掴みだすと、そのメールがネウロからである事を確認する。

「ご、ごめん叶絵、ネウロからの緊急の呼び出しだから、私もう行くね」

「はいヤコ、フルーツタルト、ホール(大)と紅茶…、しめて4850円ね」

「ええ!?だって奢るって言ったから来たのに!」

「甘いわよヤコ、利益の見込めない出資なんか私がすると思う?
…あんた確か、お財布に1000円しか入ってないって言ってたよねえ…」

何そのネウロばりの黒い笑みはっ!!?

「知ってて嵌めたのかああああ!!」


「じゃ、決まりね!ここはキッチリ奢ってあげるから、約束…すっぽかすんじゃないわよ」

「……はい、善処します」

…もう、 どこまで大事なんだ、その合コン…


叶絵は黒い笑みの残像を残しつつ、財布をチラつかせながら会計へと向かった。

はっ、ヤバイ!こうしてはいられない。
二度目のメールまで無視したら、約束を破る以前に私の明日が多分無い!!

「叶絵ゴメン、私もう行くね!」

「OKー」

妙に勝ち誇ったような叶絵の声に送られ、事務所への道程を全速力で駆け出した。


* * * * *



―――バタンッ――――

「遅れちゃってゴメンッ!!」

私は取り敢えず、第一声を謝罪に変えてみた。

「早かったな」

「へ?」

…は、早かった??

「当然準備は済ませて来たのだろうな?」

「は???」

…準備って、なんの…?
はっ! もしかして、メール!?


王美屋で着信したネウロからのメール…
私はあの時、発信者のみを確認し、その内容を見忘れたまま…今に至っていた。
慌ててゴソゴソと携帯を取り出し、ネウロに背中を向けて、遅ればせながら内容を確認する……と、


 From ネウロ
 Sub(non title)
――――――――――――

今から一泊予定で調査に向かうぞ。さっさと準備を済ませて事務所に来い。

――――――――――――


 …ヤ、ヤバイ!!


事務所にサンサンと差し込む西日は、私の挙動不審な背中に降り注いでいたはずだった…
その暖かな熱を、黒い塊が遮っている事に気付き、私は心身ともに…凍りつき、固まった。

「…ほう、我が輩からのメールを無視していたと…」

「ち、違うよ!これは無視したわけじゃなくってちゃんと理由が… あっ…」

ああああああああああしまった!!!
これは… ダブルブッキング!!?
あっちの予定も急だったけど、こっちは更に急過ぎっ!!

「まあいい、たかが一泊だ、必要な物は現地調達で事は足りる」

「え…、私1000円しか持ってないんだけど…って違う!!」

「 ? 何が違うのだ?」

「一泊なんて予定が当日発表って何なのよ!私にだって予定ってもんがあるんだってば!!」

「フム、貴様の予定か…、我が輩との一泊旅行を拒む程の理由があるとゆうのならば、聞いてやろうではないか」

「…妙な言い方ヤメテくんない?ようは謎解きに行くだけでしょっ」

「…まあ、それもあるな」

…それも? まあいいや、きっとこれはいい機会なんだ。
このまま、ネウロに私の生活の全てを握られるわけにはいかない。
この先こいつに、どれだけ振り回されるかわかんないんだから、
ある程度の線引きをしておかないと…私がもたない!


「私は明日、どうしても外せない用事があるの!」

「生ゴミ以外興味の無い貴様にか?それならば御当地グルメとやらで、事は足りよう」

「え…、御当地グルメ食べ歩きツアーかぁ……」

行き場所どこか知らないけど、巨大温泉卵みたいなボリューム満点、遊び心満点みたいなのがあったらいいなあ。
当然夕食のバイキングだってお約束的に欠かせない……って、そうじゃないよっ!!!

ダメだダメだダメだ!
こいつの誘惑に乗せられてる場合じゃないんだって!
これはもう、合コンに行くとか行かないとかの問題じゃなくて、
私とネウロの間の、明確な線引きに関わる問題なんだから!!


「とにかく、約束ってのは順番にこなしていくもんでしょ?今回は叶絵の方が先だから、叶絵を優先させるって事!」

よしっ!言えた…言ってやった!そうだ、最初からこうしてれば良かったんだ。

「合コンとやらが、それ程大事か」

「!!」

…なにこいつ、フライデーでしっかり見てたんじゃん。

「違うよ、大事なのはそっちじゃなくて…」
     「では問題はあるまい、時間が無い、直ぐに出るぞ」

ネウロは私の頭を掴み上げ、出口に身体を向けた。


ネウロは…、何も解ってない。

私は、何時もならこの時点で諦めてしまうこの行為に、懇親の力を込めて抗う。

「大事なのは…約束だよ!!」


私の頭を締め付けていた、ネウロの掌の力が唐突に緩められ、私の身体は、ペタンと床に落ちた。

「そうまでいうのなら、好きにしろ…」


そのまま…出口に向かったネウロは、独り事務所をあとにすると、バタリとドアを閉じた…


……合コンなんか行きたいわけじゃないよ…
そんな事に興味なんて全く無い。それでも…、私にだって譲れない事はある。
そりゃ、少しは意地になってたところもあるけど、間違ってる事なんて言ってない。
………なのに…
何なんだろう、この罪悪感は――――







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