小説
□‡導きだす忘却.
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* * * * *
「ゴーーーーール!!」
……惨敗した…
「私に勝てるわけないじゃんこんな分が悪いゲーム!!」
「甘い!俺、賭け事に私情は挟まない主義。
つっても俺だって半年のブランクが…あ、桂木、次あれなんてどうよ」
「UFOキャッチャー?」
それから私達は、色んなゲームをして遊んだ。
その間に、ネウロからのメールが入る事は無かった…
今日は謎が無かったのだろう。
謎さえあればあいつは、私の感情なんかお構いなしで呼びつけるはず。
私が怒っていても、悲しんでいても……ネウロには届かない。
「ほら桂木!ボーっとしてるからリズムめたクソじゃん。
で、バチはこう持つんだよ、やってみ」
「あ、うん、ありがと」
……同じ目線で、同じものを見て…、対等に怒って対等に笑う…
忘れてたけど、これって、大切な事だったよね…?
ねえ、ネウロ
忘れていた自分が怖いよ…
フライデーで今も見てるなら、これ以上失くしたものに気付く前に、
私の前に、降りてきて。
「…さて、タイムアウトだなぁ」
彼の少しトーンの下がった声が、騒音さえも遮断していた、私の耳を抉じ開けた。
「あ、外、暗くなってきちゃったね」
「 …うん 」
窓の外に向けられた顔は、さっきまでの人懐っこい笑顔ではなくて…
寂しげな微笑が浮かべられているように見えた。
…だから、今度は私から声を掛けた。
「じゃ、行こっか。約束だしね」
「 だな 」
その言葉と共に、少し戻ってきた笑顔…
それでも明らかに、さっきまでの彼とはに違っている。
ゲーセンの自動ドアを出ると、少しづつ窓に明かりが灯り初めている時間帯だった。
「ああ、…これ」
前を歩き始めた彼が、声と共に立ち止まり振り向いた。
「なに?」
彼の掌に乗っていたのは、ゲーセンのUFOキャッチャーの戦利品である、ネコの縫いぐるみだった。
あの時彼は、かなり真剣にUFOキャッチャーと向き合い、
やっとの思いで、2個の縫いぐるみをゲットしたのだ。
それを大事そうに、制服の両のポケットにひとつづつ詰めて、
その後のゲームをこなしていたのだった。
「桂木にプレゼント」
「え…いいの?」
「今日付き合ってくれたお礼ね」
「あ、…ありがと」
なんか、慣れないせいか…、こうゆう事をされるってのは、
照れ臭いもんなんだな…と、赤面してしまったであろう顔で、縫いぐるみを見つめた。
「じゃ、もう少しついてきて、そんな遠くじゃないから」
「あ、うん」
彼は再び歩き出しす。
目的地までの時間は、会話で埋まった。
食べ物の話や学校の話、それは日常の、本当に他愛の無いやり取りだった。
そこで漸く、私は思い出した…彼の名前を未だ聞いていない事を。
名前を知らないと言い出しづらかった事もあるけど、何故か気にならなかったのだ。
「そういえば、今更なんだけど…、実は貴方の名前…」
「もう直ぐ判るよ」
「 へ? 」
「今から行くの俺んちだから。表札あるし」
「…お、俺んちって…何で家!?」
「ぷっ!大丈夫だって、別にあがりゃしないから」
え?
「…どうゆう事?」
彼の表情から、笑顔が消えた…
「桂木に、どうしても頼みたい事がある」
* * * * *
「ええーーーー!!し、思念体!?」
「そ、頑張って取り繕っちゃいるけど、これ実は思念体。解り易く言えば、俺幽霊ね」
自分の指で胸付近を指し示しながら、彼が告げた思いもよらない暴露話に…
私の頭は混乱を極めた。
常に荒唐無稽ともいえるような、魔人なんかと一緒にいる私だけど…
そりゃ幽霊でもいいから、もう一度お父さんに会いたいって願ってたけど…
…本物に遭うのは、これが初めてだった。
「…でもなんで?会いたい人は一向に出てきてくれないのに、
なんで名前も知らない貴方が私のトコになんて…」
「あのさ…、大切な人の前には出られない…ってか、出ちゃダメだと思うんだ」
「な、なんで?決まりでもあるの?」
「いや、決まりなんか無いよ。そう思うからみんな出ないだけ」
「…そうなんだ」
「俺が桂木の前に現れたのは、距離感が丁度よさ気だったから」
「距離感?」
「そう、近過ぎも、遠過ぎもしない距離感。それと…」
「 なに? 」
「桂木ってあんまり物事に動じなさそうじゃん?」
「…はあ、いやまあ、確かに元々鈍感ってゆうか、慣れたってゆうかぁ…ね、…いろいろと…うん」
魔人ですら、それ程抵抗する事無く受け入れてしまった自分のアバウトさを思うと…溜息が出た。
こんな私が、目の前の存在を受け入れられない理由なんて多分、ない。
「あれだけ散々遊んで、その上楽しかったし…今更怖がる理由なんてないよ」
そうゆうと、彼の目はすっと細められた。
「…サンキュ、桂木」
今はどうとしても、もとは人間だったんだから、魔人よりは怖くないはずだ…よね?
「 で、これ…」
彼が私の掌に乗せたのは…、UFOキャッチャーで取った残りの一個の、
ペンギンの縫いぐるみだった。
「…これを、どうするの?」
「渡してきてほしいんだ」
彼は私の肩口から顔を覗かせ、指で一軒の家をさす。
「もう直ぐ、あの家から出てくるヤツに」
「それって誰?…って、え?ちょっとドコ!?」
…辺りを見回しても彼の姿はドコにも見えず、消えてしまっていた。
「渡せったって…、何て言って渡せば…」
私が途方に暮れていると、その家の玄関がカチャリとゆう音と共に開き、
一人の小さな、幼稚園児くらいの女の子が出てきた。
私は、見えない手に背中を押されたような感覚で歩き出す…
「…あ、あの…」
「 ? お姉ちゃん誰?」
「えっとね、これを貴方に渡してほしいって、頼まれ…」
「わぁっペンギンさんだっ!!これ、お兄ちゃんから!?」
「…え…」
(拾ったって言って)
微かな指示が耳元で聞こえた。
「…ううん、拾った…だけだよ」
「 …そうなんだ…、お姉ちゃん、ありがとっ!」
女の子は、ポストに差し込んであった夕刊を、背伸びしながら抜き取ると
「お母さーーーん、お兄ちゃんの約束のペンギンさん、落ちてたってぇ!!」
興奮したように叫びながら、家の中へ駆け込んで行った。
…あ
私の目の前の、夕刊で隠れていた場所…
そこには確かに、ローマ字で彫られた表札があった。
“KIRISIMA”
思い出した… この人の名前は“霧島君”
同じ学年で…隣のクラスにいた男子…
「行くよ桂木、母さんが出てくると面倒だ」
「 あっ 」
いつの間にか姿を現していたた霧島君が、私の手を引っ張り急加速した。
でも、彼はその時、言葉とは裏腹に振り返ったのだ。
再び開いたドアから覗いた、お母さんの顔を…その目に焼き付けるように…
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