小説

□¶不確定真実.※真裏】
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「かーごめかごめ、籠の中の鳥は、いついつ出やる、夜明けの晩に。
鶴と亀が滑った、後ろの正面…」

事務所の窓枠に肘を当てがい、頬杖を付きながら、
不安定極まりない音階の歌を、不意にヤコが口ずさむ。その歌詞は、我が輩にも知識の一つとして、覚えのある物だった。

「童謡か」

「あ、うん。ネウロも知ってた?」

「うむ、歌詞のみだがな」

「あー、聴いた事は無いんだね」

「で、その童謡がどうした」

「実はさ、今日学校で…」

ヤコは今日の学校での事を話し始めた。
童謡には作者不明なものも多く、その詩自体を現代の言葉で解釈した場合、符合困難なものも数多くあり、
それが違和感を残す結果となる。
故に、多種多様な裏設定が、実しやかに語られる事に繋がるのであろう。

ヤコが話した内容は、所謂、都市伝説的な裏の感情を軸とする、
いかにも、ヤコの年頃の人間が好みそうな話だった。

「でね、その人は死んじゃったんだって…その他にも、いくつか説があるらしいんだけど、どれが真実かは謎なんだってさ」

「フハハ、謎か…
まあ、貴様らからすれば、解り得ない事を、全て謎に置き換えてしまうのは、
仕方の無い所か」

「そりゃそうだよ。
これはネウロの食べる謎とは違うだろうけど、
ずっと昔に作られて作者も不明。
本当の事を知る人なんてもう何処にも居ないんだから、永遠の謎ってヤツなんじゃないの?」

「ふむ…、ではヤコ、その童謡の何処に謎を感じる?」

「んーーっと、夜明けの晩ってフレーズとか、
鶴と亀が滑った、後ろの正面だぁれって辺りかな…
だって文として脈絡が無いし、言葉として成立してなくない?」

「それで貴様は、“理解し難い=裏設定”を信じたのか?」

「え、いや…、信じた訳じゃないけど、
隠された意味があるとか言われたら、興味が湧くじゃん」

「では、その禍々しいコジツケ設定を、否定する話があるのを知っているか?」

「ぇ、何?」

「民俗学者が調べた所によると、“かごめかごめ”とゆう歌は、真に子供の成長を願う、親の心が込められた歌だとゆうぞ」

「マジで?…でも、この詩の何処にそんな心が込められてんの??」

「代表としている説はこうだ…。
子供は古来より、不思議な力を持っていて、
そのめでたい力を祝う為に、鶴と亀が現れている。
そして、後ろの正面だあれとゆう歌詞は、
その不思議な力で、見えぬ物を当てて見せている様を指しているらしい」

「…えー、でもそれじゃ、あんまり説明になってなくない?
それこそコジツケっぽいじゃん」

「その通り」

「は?」

「要はどちらもコジツケなのだ。貴様の言ったものは、裏の感情を軸としたコジツケで、我が輩が話したものは、裏を無視した視点からのコジツケでしかない…
ヤコよ、貴様ら人間は決め付けて考える事が多過ぎるのだ」

「…どうゆう事よ」

「例えば、詩を紐解き意味を導き出そうとしているが、その詩に意味が込められているかなど、何故解る?」

「だって、詩ってそうゆうものじゃないの?」

「それが決め付けだと言っている。
童謡は、数多くが作者不明となっているが、
それは、後生に名を残すまでもない、単一な人物がそれぞれに創作した確率が高いとも言えよう。
子の遊びを見守る母親が、その姿を見て適当に作った歌が、遊びとゆう媒体に乗り、後生に伝えられたとしたらどうだ?」

「…あ」

「全ての人間が文章に長けている訳ではないのだから、その詩自体に意味など存在していない可能性もある。そして、貴様も言ったように、真実を知る人間など最早居はしないのだから、真実に到達出来ていたとしても、それを肯定してくれる人間がいない以上、謎を解く意味すらありはしない」

「ん〜〜、でもその考え方、つまらなくない?」

「つまるつまらないで謎が喰えるか。我が輩には、総合的に答えを導き出せる頭脳こそが必要なのだ。
単一的な仮説などに興味はない」

「なんか、ネウロに話して損した気がするよ…」

ヤコは、意気消沈した様子でソファーへ腰を下ろし、
依頼主から差し入れられた生ゴミに手を伸ばした。


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