小説

□‡言葉の質量.
1ページ/3ページ

◇NEURO SAIDE.

『もう放さない…愛してるんだ』

『私も…、愛してる!』

……ふむ、随分と軽々しく使うものだな。
互いの愛とやらを確かめ合ったのなら、
物語は終焉を迎えてもいいはずだ…
だが、このドラマは全70話。本日分が、丁度半分の35話だ。
残り分の35話は、何を放送してお茶を濁すつもりなのか…
どうせ、明日のこの時間のこの二人は、新たな展開に翻弄され、奈落にでも突き落とされるのであろう。

暇潰しに観始めた、通称“昼メロ”と呼ばれるこのドラマ…
まあ、ネーミングからして、ソソラレルものなど何もない訳だが、
それでも、いくら暇とはいえ35話まで観てしまった事実がある。
その理由を問われれば、
この主演女優が…
少々ヤコに似ていた辺りに、興味が湧いただけなのかもしない。

このヤコ似の女の口から、既に腐るほど放たれた
『愛してる』とゆう言葉…
それを本物に言わせてみたくなったのは、
我が輩が既に、この無限ループ的なドラマに毒されてしまったからなのか…
それとも、単にその言葉に対する興味なのか…
どの道、問われても答える必要すらない思い付きであり、暇潰し程度のモノだったのだろう。


* * * * *

◇YAKO SIDE.

「……で、来るや否や、両腕を縛られて固定されたのは…何で?」

天井から伸びた二本のロープに、私の手首は縛り付けられ、左右に開かせられている…
事務所に入ったとたんにこうなった訳だけど、
まあ、いくら慣れたとはいえ、理由くらい訊く権利はあるだろう…

「ヤコ喜べ、今日は特別に我が輩自ら貴様に勉強を教えてやろう」

「…え…、昨日テスト終ったばっかなんで、今日は遠慮したいです…ってか!どーせなら一週間くらい前にその気を起こしてよ。
試験勉強でテンパってたの知ってるくせにっ!!」

「我が輩にも予定があるのだ…、そうそう貴様の都合ばかりに合わせてはやれん」

「っておいっ!!いったい何時あんたが私の都合に合わせてくれた!?自分の都合のいいように、記憶を改竄すんな!!!」

「では現代国語から行くぞ」

丸っきり無視か!
…に、しても胡散臭い…
いや、こいつが胡散臭いのは常にだけど、何でいきなり勉強よ。
しかも現国は、私一応得意な方なんですけど…

ネウロは今、紙に何かを書いている…
多分問題でも作っているのだろう。
あー、それにしてもお腹が空いたなぁ…
こんな事なら、急いで来てやるんじゃなかった…

「さあ、今から我が輩が、問題を一枚づつ捲って行くから、貴様は声に出して読んでみろ。全部で10問だ」

ああ、読みの問題ね。
書くのはどうとしても、読むのなら得意だ。
それに10問くらいなら、ゴネルより付き合ってやった方が開放も早い…かも、しれない…多分。

「いいよ」

ネウロは順をおって紙を一枚づつ捲って行き、
私はそれに、一問づつ答えてゆく。

「…ぎわく。…しっと。…じょうじ……」

 はぁ…?

「…しのびよるかげ。…くらい…かこ…??ちょっとネウロ何この問題!!」

「実用的で、日常会話に必要不可欠な問題をチョイスしてみたのだが?」

「いやいやかなり限られた範囲で実用的なだけで、寧ろ私の日常にはどれもいらないっ!!」

「まあまだ6問だ。残り4問…、
文句は正解してみせてからにしろ。いくぞ」

……既に、胡散臭いを通り越して、不気味って表現が一番近い気がする…
ネウロは、無表情で問題の紙を、再度捲り始めた。

「…じつはきょうだい(え!?)…じつはおやこ(!!!)…ちちおやの、かいしゃのとうさん(長っ!!)」

よっしゃっ!!
突っ込み所は半端無いけど、兎に角今は、心を無にして答えてしまえば私の勝ちだ!
このイライラは、全て答えた後に、纏めて突っ込んでやる!!
…さあ来い!残り一問!!

ネウロの細い指が、ハラリとゆう音とともに、残された紙を捲る…

「 あ ………ぁあああ!!!?」

 ……愛…してる????

「……何、これ」

「貴様はこの字を、“何これ”と読むのか?」

「い…いやそうじゃなくって、何でこんな問題なのかと…」
 「おおそうだ!!勉強とは苦痛ばかりに頼るものでは無かったな。特に、知的探究心が欠落している貴様が相手なのだから、尚のこと飴も与えるべきであった」

「あ…、飴?」

胡散臭い上に不気味な、今のこいつの飴なんて、
どうせろくなモンじゃない…。これは多分…、絶対に踏んではいけない、危険度MAXな地雷だ!!

「さあヤコ、最後の問題、見事解いて見せろ…
そうすれば、我が輩からのプレゼントを進呈しよう」

「…え…、プレゼント!?」

って馬鹿!ダメだってば自分っ!!

「読まないよ!絶対!!
どうせそれ読んだが最後、なんかの契約とかになるとか、そんな事なんでしょ!?」

「安心しろ、魔人が人間如きを支配するのに、言葉など必要なものか。
その魔力を以って蹂躙し、捩じ伏せればいいだけの事…
契約などとくだらん理で縛るのは、悪魔と相場は決まっていよう」

「悪魔よりあんたのがよっぽどタチ悪いわ!!!」

…でも、んじゃなんでこいつは、こんな言葉を言わせようとしてんの?…怪しいのは私の思い過ごし…?

「…そろそろ届く頃だな」

「 へ? 」




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ