小説
□‡見極める.
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《本日ご参加くださった皆様の中から、1カップル様を、当ホテルの自慢のひとつである、スイートルームの一泊無料宿泊券を、プレゼントさせて頂きたく思います。…厳選なる抽選の結果、次にお呼びするカップル様が御当選なさいました》
「え…、そんな趣向あったんだ…」
「では、発表させて頂きます!…脳噛ネウロ様と、そのお連れ様、
ご当選おめでとうございます!」
……え…えええええ!!?
何で無駄に運がいいんだネウロ!!
「尚、この御宿泊券は、本日限りの有効とさせて頂きます事を、ご了承頂けますようお願い致します。
…では、脳噛様、素敵な一夜をお過ごしくださいませ」
…ステキな…一夜…?
誰が…誰と?
私の目は、どうしたってネウロを見てしまう…
ネウロは、ボーイさんからスイートルームの鍵を受け取ると、
そのボーイさんに何か耳打ちをしている…
それから、今度は同伴の女性に耳打ち…
心の深い所を…何かが鷲掴みにしてくる…
…ギュッとした嫌な感覚を、私は痛みとして感じ取っていた―――――
「心臓…、痛いんじゃないか?」
その声に解かれた様に、私は漸くネウロから視線を剥がすと、笹塚さんを見上げた…
笹塚さんは、私に視線を向ける事無く、ネウロを見据えたまま、私に話しかけていた。
…ああ……もう、何か…
否定するのが馬鹿らしくなって来ちゃったよ…
二人が…、ボーイさんに導かれる様に、ホールを後にする…
ネウロが…出てゆく…、女の人と、一緒に…
地に足がついている気がしない…。私は今、ちゃんと立っているのだろうか…?
ふと、私の手元が軽くなった。笹塚さんが、私の食べかけのお皿を取ったのだ。
「……笹塚さん?」
「泣き出す前に、ハッキリさせてきな。…後悔なんて、しないに越した事ねえんだから」
そう言うと、私の背中を、その優しい手で、ポン…っと押した。
その一歩を足掛かりに、私は漸く前に進みだす。
今まで否定してきた、ネウロへの道を―――――
ホールの外へ出ると、三人の姿は消えていた。
既にエレベーターに乗ってしまったのだろう。
スイートルームのある階なんて、知らないけど、
多分、一番眺めのいい、最上階にあるはずだ…
私は、自分の感を頼りにエレベーターに乗り込み、
最上階のボタンを押した。
エレベーターは、音も無く吸い上げられて行く…
…気付いてしまった気持ちを、伝える為におこした行動。
あいつから気持ちを逸らしたまま一緒にいるのは、もう嫌だから…
やがてエレベーターは止まり、扉は静かに横に滑る。
私はその空間から飛び出すと、辺りを見回す…
すると、廊下の奥に、重厚な扉を見つけた。
「…あ、あそこかも」
するとその扉から、ホールより二人を案内してきたであろう、ボーイさんが出てきた…
間違いない…あそこだ。あの中にいるんだ、二人が…
勢いでここまで来たけど…、私はいったい、どんな顔してあの空間に入ればいい?そして、どんな言葉で、何を伝えようとしてる?
…何の準備も出来ていない自分に愕然とし、一瞬にして、現実に引き戻されてしまった。
笹塚さんに貰った、大切な一歩を、何の価値も無い物にしてしまいそうな自分が、情けなくて、悔しくて…
必死で塞き止めていた涙が、身体の奥から湧いてくるのを感じた…
「お客様、…失礼ですが、桂木弥子様でいらっしゃいますよね?」
先程のボーイさんが、いつの間にか私の真ん前まで来ていて、話しかけられた。
「あ、…はい、そうですけど…」
私は上ずった声で答えるのが、精一杯だった。
「やはり…、テレビでよく拝見しております。いやー、テレビで拝見するよりも、可愛らしくていらっしゃる…」
ボーイさんは少し照れたように言うと、先の言葉を続けた。
「脳噛様が、お部屋でお待ちです」
「 え? 」
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