小説
□‡見極める.
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* * * * *
「…うわぁーー…」
ホテルの立食パーティーの会場。
そこは広いホールに、高い天井。
煌びやかなシャンデリア…そして、
それに照らし出される、色とりどりの料理達っ!!
ここのホテルのお薦めは、なんと言ってもローストビーフだ!
私はローストビーフの位置をまず確認した。
「弥子ちゃん、俺は適当に回ってるから、好きなだけ暴れてきな」
「や…、やだなぁ笹塚さん、暴れるなんてちょっと酷いですよ…。
んじゃ、待っててください、ローストビーフ取ってきますね!」
「ああ」
私は、笹塚さんの分と自分の分、お皿を2枚持って、ローストビーフへと直行した。
シェフが切り分けてくれるローストビーフを、
少し無理を言って10枚程乗せてもらう。
…っと、後ろに並んだ、大人の女性達の会話が耳に飛び込んできた。
「さっきすれ違った人、素敵過ぎない!?」
「見た見た!日本人じゃなかったよね…、どうせカップルを装うなら、あんな人が良かったな〜」
…ああ、この人達も偽カップルできてる人なんだ…
まあ、ここの料理がタダで食べ放題ってのは、確かに凄い引力だよね。
「でも…、一緒にいた女の人、明らかに年上だったよね。かなりセレブな感じの…」
「…彼、愛人か何かだったりして」
「あー…、そうかもね。やたら髪の色とか三色で派手だったし、ホストか何かなのかも」
……三色?
容姿が外人で、髪の色が三色…
まさかね…、いるよいる、うん。そんなのネウロに限った特徴じゃないじゃん。
だいたいあいつがここにいるわけな――――――――
……い…たあああああああっ!!!
…ネ…、ネウロ!?
その見紛う事無きド派手な存在は…
いつもの青ではなく、黒を纏っていた。
…なっ何でネウロが!?
はっ!嫌がらせか!私への嫌がらせの為か!!?
クッソー、行き先なんて教えるんじゃなかった!!!
私は自分の迂闊さを、激しく呪っていた…
って…、ここにいるって事は、一人じゃないよね…?
いったい…誰と?
ネウロの視線の直ぐ先…
そこにいたのは、私が会った事もない、大人の女性だった。
……誰?
少し前に、耳にした記憶が甦る。
『彼、愛人か何かだったりして…
』
……いやいやいやいや、いくらなんでもそれは…、
ないないない!あるはずないじゃん。だって、
あのドSがだよ?よりにもよって、人間の愛人になるなんてどう考えたって…
って… ええ!!?
私の視線の先のネウロが、その同伴の女性に飲み物を取り、手渡している………
…何気に、ちゃんとエスコートしてないか?あのヤロー…
「弥子ちゃん」
不意に背後から名前を呼ばれ、私は我に返った。
声の主は、勿論笹塚さんだ。
「あ…ご、ごめんなさい。今戻るところでした」
「ボーっとしてたけど、何かあった?」
「い、いえ、何でもないです。はいこれ、笹塚さんの分」
と、言ってお皿を手渡し、ネウロからは見えにくい位置に、笹塚さんを誘導して移った。
人の壁越しに、チラチラと見え隠れする、ネウロとその同伴者…
気にしたくないのに、どうしても私の目は、その二人に吸い寄せられてゆく…
お皿の上の、大好きなローストビーフ…、口には入れているけど…
なんでだろ…、味が感じられない…
「…助手君が気になる?」
「笹塚さんネウロに気づいてたの!?」
「まあ、彼目立つしな。それに、気になる存在ってのには、目が行くもんだろ…」
気になる…存在?
「助手君の予定もここだったわけか。一緒の女性…、弥子ちゃんの知ってる人?」
私は、無言でブンブンっと頭を振って答えた。
「……そっか…」
と言うと、笹塚さんは私の頭を、慰めるように、軽くポンポンと叩いた……って、ちょっと待って。…なんで慰め???元々私とネウロは間違ってもそんな関係じゃないのに…
笹塚さん絶対何か勘違いしてる!!
「あ、あの、笹塚さん何か勘違…」
《本日は、当ホテルの10周年記念パーティーにお越し頂き、有り難う御座います》
否定しかけた私の声を、遮るように、ホテルの支配人であろう人物の、
感謝の意を伝える、スピーチが始まってしまった。
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