小説

□†明滅は鍵に依存する.【現段階で)微裏】
2ページ/20ページ

◇HIGUCHI SIDE.


AM 7:00

他人の家を訪ねるのには、
少し早過ぎる時間帯…


今は夜勤明け。
朝まで署でパソコンに向き合っていた俺は、
徹夜明けのハイな勢いのまま、途中のコンビニで買い占めた、デザート類を詰めただけで、“お見舞い”と名付けたビニール袋を手に、昨日のエレベーター事故の被害者、桂木の家へ向かっていた。

ワイヤーが切れ、猛スピードで急上昇し、大破したエレベーターには何者の姿も無く、あれだけの参事なのにもかかわらず、怪我人は 0 と、報告されていた。
…まあ、エレベーター内に何故か助手がいたと、
笹塚さんが不思議がってたから、桂木はネウロに助け出されたんだろう。

昨日の内に、笹塚さんの携帯へ、無事を知らせる連絡が入ったと聞いたけど…
俺は二つの理由から、見舞いに行くことを決めた。

一つは、無事な姿をこの目で確認する為。
そしてもう一つは、嘘をついてしまったことを謝る為…

あの時、俺が嘘をついてまで桂木をランチに誘ってなかったら、
桂木は、あのまま笹塚さんに会いに行き、結果、あの事故を起こしたエレベーターには乗っていなかった確率が高い…

そして本当はもう一つ…
聞けるなら、聞いてみたい事柄もあった。

それは、あの時の“涙”の理由…

俺には関係のないことなのかもしれないけど、
刺さったままの棘は、抜いておかないと膿をもつ…
そうなってからでは、完治に時間もかかり、痕も残るからだ。

まあ、小難しく言ったところで、単に好奇心であり、
自分がスッキリしたいだけの理由であることに、
変わりはないんだけどさ。


…笹塚さんに聞き出した住所だと、確かこの辺りじゃなかったっけ…?

少し前から、風景は住宅街へと移っていた。
俺はキョロキョロと、桂木と書かれた表札を探し、
挙動不振ぎみに左右に顔を向ける…
その仕草を繰り返しつつ、二、三軒進んだところで、
右側の家の、桂木と書かれた表札と、視線がぶち当たった。

「…へー、ここかぁ」

と、独り呟いてみるも、
なかなか敷地内への一歩が踏み出せない…
勢いで来てみたはいいが、
他人の、しかも女の子の家。母親だっているはずで…
やはりこの時間帯にインターフォンを押すのは、
いくら普段、あまり他人を気にしない自分でも、
それなりの勇気がいった。

柄にもなく戸惑っていると、その門の中の玄関から、
鍵を開ける音がかすかに漏れ、俺は反射的に、
近くにあった植え込みに姿を隠していた…

ドアは静かに開けられ、密かに靴音も聴き取れた。
植え込みの繁りが凄いせいで、玄関の様子は殆ど見えないが…
それが何であるか、人目で判る“色”が繁みの隙間から飛び込んできた。

“独特の鮮やかなブルー”それをを纏うヒトガタ。

「…ネウロ?」

何でこんな時間に…?
いや、アイツは魔人なんだから、常識なんか考えて行動していないのかもしれない。特に相手が桂木であれば、当然行動だって雑になるだろう。
正体を隠しているネウロにとって、警戒心を抱かないで済む最たる存在…
それが桂木弥子だ。

「ネウロ、私は少し遅れて行くね。お腹も空いたし」

「まあよかろう、我が輩はその間に、先程感じた謎の発生場所でも探るとしよう」

「うん、ありがと」

…まあ、
どの道、帰るところなんだから問題はない。
俺は隠れることに集中し、
ネウロが去るのを待つことにした。……だがその時、

「ちょっ!ネウロなにっ……」

イキナリの桂木の声に、再び繁みの隙間に目を凝らす。すると……

鮮やかなブルーが、小柄なヒトガタを包み込み、
その頭部と頭部が、重なるのが見えた…

「!!………なっ」

思わず漏れた、小さな言葉にもならない音声を、
飲み込むように、己の口を掌で押さえ込むと、
身体を反転させ、二人のいる玄関に背を向ける形で、
植え込みに身体をめり込ませた。

一瞬前の映像が頭の中を占め、不鮮明だったソレは、
脳内で勝手に修正され、
付け加えられた想像と合間って、輪郭を際立たせてゆく。まるで…、パソコンでの画像解析のように…


はっと我に返り振り向くと、そこには既に、
ネウロの姿は無かった…
帰ったとゆうか、掻き消えていた。

まるで、何事も無かったかのように閉じられたドア…
その奥には、今さっき、
魔人であるはずのネウロと、唇を重ねていたであろう、桂木がいると思うと、
俺が気にしていた、最小限の常識などとゆう概念は、軽く吹き飛び、欠片も残ってはいなかった。

俺は、迷いのない足どりで玄関に立ち、
中の桂木を呼び止めるように、インターフォンを押す。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ