小説

□‡Invaribility[不変]
1ページ/2ページ

◇NEURO SIDE.



これは、いつか見た風景――――――


我が輩にとってそれは、
メモリアル的な、
期待に満ちた記憶。


電柱からの視点…
単調な色の服を纏い、出入りを繰り返す人間の群れ。


香ばしい謎の匂いと共に刻まれた、
我が輩の記憶の中の風景…


……一人、足りないな…

記憶の中の、壁に凭れ項垂れた…小さき影。

―――それが、いつかの風景との、まごう事無き“相違点”


謎に満ちた世界に興奮し、口角はつり上がる。
我が範疇に引き込む人間を見定めるのに、そう時間は掛からなかったはず。


何故…アレだったのか

何故…選んでしまったのか


あの時、選びさえしなければ、今こうして……味わわずとも済んだのだ。

貴様が我が輩に植え付け、
遺していった感情が、
ポッカリとした何かを伝えてくる…


「……さて、ヤコよ…、この感情の名は何と言ったか…」





* * * * *

◇GODAI SIDE.



「邪魔するぜ…」

俺は通い慣れた場所のドアを開けた。

前方に視線を向けると、
そこには窓からの西日に照らし出されたヒトガタの輪郭…
一瞬喪服に見えたそれは、
振り返り、その身体の向きを変えた事で、いつもの青なのだと気付く。
その表情は、逆光が作り出す濃い陰に覆い隠されて、見る事は出来なかった…


「…吾代か」

「おう…、何で来なかったんだ…?」

「行く意味が何処にある。
謎など無い、カラの場所ではないか」

「…テメーはそれで良かったのかよ…、送ってやる事ぐらい、出来たはずだろ…」



  三日前


 ―――――探偵は死んだ



その日はたまたま、俺もこの場所に来ていた。
そしていつものように、
この化け物と、探偵と、
何の用意も無い言葉で…
罵り合い、愚痴り、
溜め息を吐き…そして、
それでも少しは、笑ってたっけな。


あいつのご贔屓のタコ焼き屋…
若菜つったか。
そこで新商品が売り出されるとかで、キラキラした目で…


『吾代さんの分も買ってくるね!』

……それが俺にとって、探偵の声を聴いた最後だった。



探偵が出かけてから10分程した頃、
イキナリ化け物が窓から飛び出した。
…訳判んねえ俺は、
いつも踏ん反り返ってるコイツのただならぬ雰囲気につられ、
その後を追ってここを飛び出した…

ビルを出てみると、化け物の姿は既に何処にも無かったが、
俺の足はタコ焼き屋へと向かっていた。


そして――――人だかり。


その人だかりの中心に、
青いヒトガタと…
赤い海に沈むヒトガタ…


救急車は、
タコ焼き屋のオヤジが既に呼んだらしい事を、
野次馬が確認しあっている。

俺は何も出来なかった。
ただ、中心で跪く…化け物の丸まった背中を、
まるでテレビの映像でも観るように、
妙に五月蝿い心音の中で、
眺め続けていた…


化け物は、
既に動かない赤く染まった探偵を、最小限の力で抱き締めたまま……
離れようとはしない…


(犬…、助けたらしいよ、あの娘)

近くの野次馬が真相を漏らす…


…犬助けて…
車に撥ねられたのかよ…

この化け物に係わって、
それでも生きてきたオメーの最期が、こんな―――――







.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ