小説

□‡実情の後先.
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◆YAKO SIDE.



……………
……知ってたよ。


ネウロにとっては、私が初めてじゃない事くらい…
理解してた。


あいつには、私が知らない長い長い時間がある…


その中に、他の女の人がいたって、全然不思議じゃないじゃん。


大切なのは“今”なんだよ…


屋上に逃げてきてから、私はずっと、
それを自分に言い聞かせている。


私とネウロでは時間の流れ方が違う。
私の一生なんて、あいつにとっては、
長い生の中の一瞬でしかないんだ…


いつもは考えないようにしている、
動かし難い事実までが、
不安に煽られて、
顔をだす。



…あいつの相手って、
魔界の女の人、、、、なのかな。


ネウロはずっと私の傍に居るって言ってくれた。
…けど、それすら一瞬で過ぎて…

そして魔界に帰ったら、
その相手と、また逢うのだろうか…
魔界の女の人なら、
時間の流れも同じなんだろうから、
…魔界で、待ってるのかもしれないよね、ネウロが帰るのを。


そうして、私が存在していた事すら…
忘れ去られるのかもしれない…




「…ねえ、ネウロ。
私はあんたに、何を残せるんだろう…」


「そうだな、
貴様が残せる物など、せいぜい記憶と…」

「ネウロ!?何時の間に…
って、へ?…!」


いきなり唇を落とされ、触れるだけのキスをされた…


「…この感触くらいか」


……そっか。
そんなもんだよね…


「あんたが魔界に戻ったら、そんなもの一瞬で忘れそうだ…」

…どんな反応をしていいのか判らない私は、
苦笑で返すのが精一杯だった。


「馬鹿めが。
貴様に全てを忘れるなと言ったのは、この我が輩だ。
忘れる等と愚かな事を、我が輩の脳が許すとでも思うのか?
豆腐である貴様と同列に語るな」


「 …… 」


「そして、我が輩に問いたい事が有るなら、言葉にしてみろ。
貴様に答えられん事など、
何一つ無い」



「 …… ぃぃ 」


「 なぜだ 」


俯いていた私の顎に手を当てがい、グイッと引き上げて、無理やり視線を合わせられた…
私は堪らず視線を外し、
その手を払いのけ、
………叫んでいた。


「聞きたくないから いい!!」


「…そうか、
では好きにしろ。
だが、何時までも腑抜けた顔を見せられるのは不愉快だ。
とっととその感情を、
捨てるなり封じるなりしておけ」


…人の感情を逆撫でするセリフを吐くと同時に、踵を反したネウロに、
私は問いでは無く、
感情をぶつけた。


「簡単に捨てたり蓋したり出来る訳ないじゃん!!
あんたは私の気持ちなんか、全然解ってないからそんな事が言えるんだよ!!!」



「…受け入れられず、
目も耳も塞いで生きたいのならば、そうすればいい。
それで何かを失おうとも、
貴様が出した答えであるなら、本望だろう」



「…な、何を失うってゆうのよ…」



「失う物は、本来の貴様自身であり、
…延いては、我が輩だ」



…え

血の気が引いた。

脳の芯が冷え切り、
今にも凍りつきそうな…

それくらいに、衝撃的な言葉。


…だって、

「…聞いて受け入れられなかったら?
過去なのに…、
判ってるのにさ……
それでも嫉妬しちゃうんだよ私は!!」


私は、心にどうしようもない鉛の玉を抱えたまま、
しゃくりあげて泣いた。

多分、全てを聞いたとしても、
ネウロが昔、愛した人が居たとゆう事実で、その鉛の重さは際限無く増して行くのだろう…
それ程までに私は、…この魔人に、恋い焦がれている。


「…ずっと…一緒に、いたいよネウロぉ…1_だって離れていたくな…」


涙のフィルター越しに、濃い青が迫り、その胸に抱かれた。
私は、その背中に腕を伸ばし、埋めようのない空白を押し潰すように、
深く…その懐に潜り込む。


「勝手に煮え立つな…
我が輩の過去など、貴様との日常が、
既に剥落させている」


頭上から声が降り、
それは私の身体に滲み入り、ゆっくりと、消化を開始する…


「…それでも聞きたくないのなら、
耳を塞いでいろ。
これから話すのは、ただの昔語りだ」


私は、ジャケットに埋もれた頭を、小さく左右に振った。


「……聞くよ」








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