小説

□‡後悔は払拭を待ち侘びる.
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あの時、何故私は目を閉じたのか…


ネウロの唇が近付いて、
目を閉じればキスされるのは判ってた。
いや、それ以前にその行為が、『プロポーズの承諾』にあたる事も、ちゃんと判ってたのに…
それなのに…、私は…




早くも道を誤った!!!



たった16年の人生において、人生最大級とも言える
判断ミスを犯してしまったのだ…



終わりだ。…もう終わった。


『後悔先に立たず』
『覆水盆に返らず』


そんな後ろ向きな言葉ばかりが、頭の中には渦巻いていた。



「どうしたヤコ、反応が薄いではないか。
…貴様の言葉を聞かせろ。
我が輩の名を呼べ…」


「ん〜〜〜〜!ぶはっ!!
人の口に手ぇ突っ込んどいてそんな理不尽な命令すんな!普通喋れんわ!!!」


「そこはそれ、主人の望みの為ならば、
奴隷は命を削ってでも…」

「聞き飽きたってばそのセリフ!!
もういい加減にロープほどいて降ろしてよ!
何なのいったい毎日毎日!
意識堕ちちゃったら謎解きだって行けなくなるし、困るのあんたじゃないの!?」


「心配するな、堕ちても我が輩の口づけで、
覚醒させてやっているではないか」



……;


何でこいつは、普通にキス出来ないんだろう…
あの時みたいにしてくれたら、私だって……



「不服そうだな。
普通の時に口づけが欲しいのであれば、
貴様から求めればいいだけのこと。
それが嫌なのなら、
何時までも我が輩に蹂躙され続けていろ」


…何、こいつもしかして、
連日私を吊るしてるのは、
それを気付かせる為?



「さて、どうしたい?」


「…も、求めてやろうじゃん私から。だからさっさと降ろして!」



「…よかろう」



ネウロは珍しく、私を抱かかえて降ろしてくれた。
“進歩には進歩で返す”
とゆう意味合いなのだろうか。
ロープを解かれた私が、
一番痛かった腕を摩っていると、
ソファーのネウロが手招きをする。
もう片方の手で、自分の膝を指差しながら…


「…うっ…そ、それはちょっと…;」


私が、戸惑いの言葉と苦笑を浮かべると、
口角を吊り上げて、刃物の手を提示して見せた……



「乗せてまではやらん。
貴様自ら、我が輩の膝に跨り、求める様を見せてみろ」


…求めると言ったのは私だ……、
それに、優しいキスなら、嫌な訳じゃない。
私は、ネウロの膝に跨り、その両肩に手を置いた。
緑の螺旋は、瞬きもせずに私を見つめている。
その螺旋に、吸い寄せられるように唇を重ね、軽く吸うだけのキスを終えると………、唇を剥がした。



「…貴様の愛情とは、その程度の交わりで満たされるものなのか?…」


「え?」


「人間のゆう愛情が、それ程に薄く浅いものだとしたら、我が輩のこれは、
愛情とゆう感情とは違うのかもしれん」


「…ネウロ…」


細められた眸と、少し不機嫌に寄せられた眉…
その表情に、胸が締め付けられた。
この魔人はきっと、
愛情とゆうものを、真剣に考えた結果出した結論が、
人間の形式に則った、プロポーズであり、
墓参りであり、承諾を得ること…だったんだ。

茶化していたのは私で、
向き合っていなかったのも、この私の方だ…

こいつの居ない日常なんて、もう考えられないのに。
取り繕ったって、どう足掻いたって…
手放せないくせに……
ごめんね、ネウロ。



「リトライ…、させて;
今度は、満足するまで頑張るから」


私は、唇全体を貪る様に啄ばみ、
閉ざされた唇を抉じ開ける…
自ら挿し込んだ舌で、ネウロの舌を探り当て絡み合わせ、深く深く口づけた。

知らず知らすのうちに、私の身体はネウロに密着し、
その身体を抱き締めていたことに気付いた。


…ああ、
……求めるとは、
こうゆう事をゆうんだ…


感情が解らないはずのネウロに私は…
自分を曝け出す術を、教えられたのかもしれない。

その存在の大きさと、愛おしさに、
涙がこみ上げて来た…
流すまいと堪えることで、
唇の震えが誘発される。

それに気付いたのか、
ネウロは自らの唇を剥がすと、キツク私を抱き締めた…



「…ヤコ、今夜貴様の家へ行くぞ」


…え?


「父親の次は、母親の承諾を得ねばなるまい」



「……うん」


私はネウロの胸に顔を埋め、小さく、その申し出を受け入れた。








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