小説

□‡覚悟をなぞる.
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「まあ、その辺に座れや」

と、顎で空間を指し示す。


「うん、あ、これ…、
お見舞いのフルーツとポカリね」


「おう、すまねぇな…
そこに置いといてくれ」



…吾代さんは本当にダルそうだ…
まだ熱が高いのかもしれない。



「吾代さん病人なんだから、私に構わずベッドで横になっててよ。
何かすることあれば、私がやっておくから」


「ああ、そっちこそ気にすんな、俺のベッドはこれだ…」


「え…、ソファーで寝てるの!?;」


「あのタヌキ親父の会社に入って、金回り良くなって引っ越したはいいが、忙し過ぎてベッドを買いに行く暇もねぇときた…
折角まともな棲み家借りたってのに、寛いでる暇もありゃしねぇ;」



…元を正せば、ネウロのせいなんだけどね;;;


あ、まだ熱高いんでしょ?ちゃんと頭冷やして、
水分を充分に摂ってないと、治る物も治らないよ」


私は、お見舞いの袋の中から、ポカリを取り出し手渡した。


「はい、これ飲んで。
熱は何度あるの?」



「…あー、そういや、体温計もねぇんだった」


「え!マジで!?」


「あんなモン測ったからって、それで下がる訳じゃねぇんだし、
あっても無くても状況は変わんねぇだろが…」



…健康管理に無頓着なのにも程があるよ……


「って、まさか病院には行ったんだよね?;」


「おう、行った行った。
会社で、高熱出してぶっ倒れたら、望月のおっさんが慌てて救急車なんぞ呼びやがって…
強制的に連れて行かれたよ…」


「…へぇ、そうなんだ…」


なんだかんだ言って、ちゃんと心配してくれる人がいるんだね、吾代さん…


「そういや、あのタヌキ、何か言ってなかったか…?」


「…あー…、そういや丸ロボがどうとか…、
まあ、ゲームの話しみたいだったし、気にしなくていいんじゃ…」

「あんのタヌキ、未だに254面クリア出来てねぇのかよ!
呆れるぜまったく;」



そう言うと吾代さんは、紙にペンで何かを書き始めた…


「これ、おっさんの社長室直で、ファックス流しといてくれ…」


「…気になってたんなら、着信拒否なんかしなけりゃいいのに…」


「インフルエンザで頭がガンガンしてる時に、おっさんの声なんざ、誰が聞きてぇかっての…」


そう言って、顔を背けた吾代さんを見ていたら、
自然と私の表情も和んでゆくのが判った。



ネウロがいなかったら、出会ってはいなかったろうこの二人…

ここにも、奇妙な絆が、生まれ掛けているのかもしれない。


「吾代さん、折角来たんだし何か作っていくよ。
食べれそうなら、後ででも食べて。冷蔵庫開けるねぇ」


「あ?何かったって…
材料なんか何もねぇぞ?」


「…あ、お米あるじゃん。
それと卵も…
卵粥が作れるよ♪
ちょっとキッチン借りるねぇ」



私は、卵粥の仕度に取り掛かった。……その刹那、



「ぅがっ!!」
 
 
後頭部に、いきなりの衝撃を喰らった。
 
 
「〜〜〜ったぁ…」
 
何かが、髪に突き刺さって落ちた…
 
 
痛みで涙目になった視界に、それを収めて見ると…
 
 
 
「!!…ぇ、こ、これは」 
 
 
私のテストの時に、ネウロが嫌がらせで使った…イビルファンブル!?;
 
 
 
「ん?、…手紙?」
 
 
 
そのアンプル状の魔界道具には、手紙が括り付けられていた…
 
 
 
…もう、何だってのよ;
 
《これは我が輩が、貴様等下等な人間用に改良を加えた、魔界の抗生物質だ。
地上のインフルエンザ・ウイルスなど、一滴で消滅する。これを吾代に飲ませておけ。
…PS予防の観点上、貴様も一滴摂取しておけ。》
 
 
 
 
「…ネウロが調合した薬を信用しろと…?;とんでもない副作用とか、普通にありそうなんですが…;」
 
 

でも…、私が動けなくなって困るのはネウロだもんね。
ここはひとつ…
信じてみるか…
 
 
 
私は、鍋の中に、アンプルの中身を数滴垂らし…火にかけた。
そして残った一滴を、勇気を振り絞り、
己の口の中へと流し込んだ。
 
 
「…あれ?」
 
 
激マズイのを、覚悟していたにも関わらず、ソレが無味無臭だった事に少しホッとしながら、卵粥の調理を再開する…。
 
 
 
「…なあ、探偵…」
 
 
不意に、吾代さんがソファーから、私に話し掛けてきた。
 
 
 
「え? なに?」
 
 
 
 
「おめぇが、あの化け物と一緒にいる理由は何なんだ?」
 
 
 
「 …へ? 」
 
 
 
 
 
 
 
 
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