小説

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暗い廊下…
 
私は、自室ドアの横にあるスイッチを探す為に、
震える手をさ迷わせた。
 
 
 
 
淡いオレンジの柔らかな光りが、見慣れた空間を映し出し…
 
おまえは今間違いなくこの場所にいるのだ…と、
 
なだめてくれる。
 
 
 
 
喉の渇きが酷い…
 
私は水分を求め階下を目指す。
 
階段を一段一段踏み締めると、自分が作り出した濃い影が、
足元に底無し沼のように渦を巻く………途端、
歩を踏み出すのが怖くなり、私はその場にうずくまる。
 
 
 
 
 
…………夢を、見たのだ。 
 
 
 
雨が…降っていた。
 アスファルトを叩きつけ、飛沫が花を咲かせる程の強い雨が…
 
 
 
濃い灰色の世界で、それは私の足元に転がると、
その四肢は完全に動きを停止し……ただ、ドロリとした赤が染み出した。
 
 
赤は打ち付ける狂雨に拡散され、
濃度を変え…色を変え…
その朱は排水溝へと吸い込まれてゆく。
 
止めど無く…軽い朱は流れ続けた。
 
 
 
 
 
身体が…動かない。
ずぶ濡れの制服は、重りのように枷のように…
私をその場に縛り付けた。
 
大量の水に抱かれながらも、その内は急激に干からびていく…
カラカラになった喉から私は漸く…名前を搾り出した―――――――――
 
 
 
 
「……ネ…ウロ…」
 
 
 
私の中の赤が…
ブクリと泡立ち沸騰していくのが解る。
 
 
 
 
 
…… 失ったのだ。
 
 
一番近くに居た存在を―――――――――――
 
 
 
 
 
 
………私は、
カラカラに渇いた喉の痛みと、自分の枕の…冷たさで目が醒めた。
 
雨ではない雫が目醒めても尚…滴り落ちる。
 
 
 
「…ネウロ……」
 
 
 
私は深夜の街へ走り出した――――――――
 
 
 …雨じゃない。
 
 …灰色じゃない。
 
 
瞳に映る物全てを夢と較べながら…
不安を打ち消しながら… 
あいつの無事を確認する為に。
 
 
 
 魔人は不死身なんかじゃない…
HALの件でそれを嫌と言う程思い知った。
私の中で、絶対的な存在ではなくなったネウロを、あの時私は心底助けたいと感じ…この日本とゆう国とネウロを、天秤に掛けた… 
 
 
あいつは、
ただ食べたいだけ。
生きたいだけ。
人間に害を成す生き方なんて、全くしてきてはいない。
 
 
そんな魔人を、ネウロを、私が補えるのならこいつに付き合って行こう。そう決めたのだ。私の意志で。
 
 
 
 
* * * * * 
 
事務所の入る雑居ビルの足元に辿り着いた。
私はその四階を見上げる。そこは他の階と違わず、明かりもなく静寂に包まれていた。
 
 
「…寝てるかな…ちゃんと寝てる…よね?」
 
 
私は静かに、エレベーターに乗り込んだ。
 
…扉が開き、見慣れたドアが直線上に姿を現し、
非常灯のみの薄明かりの中を私は真っ直ぐに進む…
 
 
 
この中にあの存在がいるなら…それでいい。
 
だだそれを確認したいだけ。 …安心したいだけ。
 
 
 
私は呼吸を止め自分の存在を消すように、静かにそのドアを開けた…
 
 
 
 
 
 
――濃い灰色の部屋――

 
私の目を引き付けたのは、ブラインドが降ろされていない窓から覗く、
……大きな白い月。
その光りで浮かび上がる、赤黒い…トロイ。
 
そのコントラストに、私の中の赤がドクリと反応しだす。
 
 
――恐怖のリバイバル。
 
私の身体は固まっていた。
 
 
 
すると、敏感になっている聴覚に薄い寝息が流れ込むのを感じ…
私は視線のみをソファへと向けた。
 
暖色のソファに横たわる長く黒い影。
人間のものとは違うゆっくりな呼吸……
 
 
 
………ネウロ。
 
 
私は、全身が脱力する程の安堵をおぼえる。
その横たわる身体の真横まで歩み出ると、ぺたんと崩れるように床へ落ちる…
 
 
間近でその存在を確認し…新たな感情が涌いてきた。
 
 
私はこの魔人と、後どれだけ過ごせるのだろう。
 
 
例えば…この魔人が力尽きてしまった時、何が…遺されるのだろう。
 
考えて思い到った答えは…… 無 だった。
 
 
 
この存在はその骸を曝す事なく、髪の毛一本遺す事なく…掻き消えてしまうのかもしれない。
いつの間にか私にとって大切になっていたこの時間に…何の意味も遺す事なく。
 
 
…まるで最初から何も無かったかのように、
無から産まれ無へ…返ってしまうのだろうか。
 
 
 
 
 
私はそっとネウロの胸に耳を当てがう…
初めて聴く、魔人の鼓動…
それは不安になる程長い間隔で、規則的に響いてきた。
 
 
鼓動の速度は寿命に関係するのだといつか何かで読んだ気がする…
 
 
 
やはり魔人なのだ。
人間には有り得ない長間隔の鼓動を聴き取りながら、心配はいらないのだと自分を諭す。
私の方が先に尽きるのなら…… それがいい。
 
 
 
 
 
 
 
 
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