小説

□‡七夕.
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【王美屋のケーキ5巡。絹屋の釜揚げうどん得盛りで20杯。お好み焼きなんさまの、豚たまミックス26杯。北斗神軒のジャンボ餃子30皿。魔堕羅飯店の坦々麺42杯。若菜のたこ焼き50箱。一週間日替わりで、誰かが奢ってくれると嬉しい!!】



《…ヤコちゃん…短冊、後何枚必要…?》


「え…や、やだなぁあかねちゃん。今ので書き終わったよ。
7月7日に7枚の短冊!
777でなんかパワーが増して、満願成就しそうじゃない?」


《…か、叶うといいね》

七人の誰かが裏で不幸になるけど…



今日は七月七日。
学校の帰りに、ヤコちゃんが小さな笹の枝を買ってきてくれたので、今、私とヤコちゃんで飾り付けをし、願い事を短冊に書いているところだった。
やっと書きあがったヤコちゃんは、
七枚の、欲望とゆう名の短冊を、満面の笑みで、その細い枝に括り付けている…



「よし!完成!
…で?あかねちゃんは何をお願いしたの?」


そう言いながら、ヤコちゃんは私が書いた、一枚のみの短冊を手に取った。



「なになにぃ…
牽牛と織姫が、ちゃんと逢えますように…!?」


…それを読んだヤコちゃんは、あからさまに驚愕の表情を浮かべ、私に聞いてきた…


「あかねちゃん…もっと他に願い事ってないの???」


《……ん〜…》


私はポリポリと、三つ編みの毛先で自分を掻く仕種をしてから、
ボードにペンを走らせた。


《既に“無”だった私が、今は…
素敵な二人と出会うことが出来ている…
これ以上の願いなんて思い付かないから…》



「…あかねちゃん…」



不意に事務所のドアが開き、少し出ていたネウロさんが戻ってきた。



《ネウロさん、お帰りなさい》

「おかえり、ネウロ。
どう?謎の場所、遠そうだった?」


「フム…方角は掴んだが、
発生にはまだ時間が要するようだ。
……それよりも、
その、しな垂れ、今にも折れそうな植物は何なのだ?」


《…七夕飾りモドキです…》


「…ハハハハ、
出かけてたんだから、外で見なかった?
今日、7月7日はね、
七夕と言って、人間界で年に一度だけ、
笹の枝に願い事をしてもいい日なの」


えっ!?
それで説明終り!!?
なんか重要な部分、綺麗に抜け落ちている気が…


「…成る程」


!!
こっちもこっちで疑問は無いんですか!!!?


ネウロさんの間違った認識の三分の一くらいは、
ヤコちゃんが植え付けているのだと…
今私は確信した……



「ねえ、ネウロもなんかお願いしなよ。
はい、これ短冊。
ここに願い事を書いて、
枝に括り付ければ完了だよ」



「…我が輩の願いか…そうだな…」


ネウロさんが、短冊に願いを書き始めた…
この人の願いと言えば、やっぱり“究極の謎”かしら…」


「ヤコ、書けたぞ。括り付けておけ」


「どれどれ?……!!!!
誰が自分に不幸が舞い込む願い事なんか括り付けるかっ!!!」


ヤコちゃんの怒りと共に、短冊が宙を舞う…



【我が奴隷に、二度と生ゴミを食せない胃袋を用意しろ】


……えっと、これ、
奴隷って書いてあるよ?
“ヤコ”って書いてないのに…
もう無意識に認めちゃってるんだね…
ってゆうかネウロさん、
この文体だと“お願い”じゃなくて命令になっちゃいますけど…

私は堪らず苦笑をもらした。
色んな意味で…



「ネウロのせいで、七夕気分が台無しだよもう!!
どうせ謎は明日でいいんでしょ!?
だったら、私はもう帰るからね!」


「それはかまわんが、
明日呼び出しに遅れたら、
我が輩の願いが現実の物になると思うがいい…」


「!!!っ
…ゎ、わかったわよ!じゃぁね!!」



………
ヤコちゃんは、怒ったまま帰ってしまった。




「…アカネ」


《え?》

気づかない内に、ネウロさんは私の机の前に立っていた。



「短冊とやらは、まだあるのか?」


《あ、はい。
折り紙を切るだけなので、いくらでも用意できますよ?》


「一枚でいい」


《“究極の謎”ですか?》


「…自力では不可能だからこそ、人間は何かに願いを掛けるのであろう…
究極の謎は、願うまでもなく、自力で手中に収めてこそ、究極と成り得るのだ」


………


ネウロさんは緑の短冊に、再び文字を刻んでゆく…



「これを括り付けておけ。
それから…
明日、アレが来る前に外しておくのを忘れるな…」



そう言うと、ネウロさんは私に短冊を手渡し、所長椅子でうたた寝を始めてしまった。




緑の短冊。

そこに書かれていた文字は…






   【 永遠 】




…叶えられない願いだからこそ、人は何かに縋り付く…

人間に近付き過ぎた魔人も、例外ではないのかも…しれない。



私は今、満たされている。
でもそれは…
この人達が根付いた、この場所の上に在るもの。

この人が永遠を望むのであれば、
私の願いもまた…
“永遠”でしかない……



私は、窓の外の、この日にちには稀な星空を眺め、
そこに在る神話に想いを馳せる。


貴方達には想いがあるのだから、自力で逢えるよね…


私は新しい短冊に、真の願いを書刻むと、
一番太い枝に、
ネウロさんの物と一緒に括る。

弥子ちゃん流に言えば、
これでパワーも二倍になるかもしれない。




薄く開いた、窓から流れ込む涼風が、
二つの【永遠】を、優しく揺らす姿を眺め、
私も壁紙の中で、眠りについた――――――――




fin.

2008.7.08
 

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