小説

□†進化のベクトル【※微裏】
1ページ/23ページ

◆YAKO SIDE.
【一日目】


今この事務所には依頼主が来ている。彼女の名前は真野咲己(まの さき)さん。年齢25歳、どこか儚げで、長い黒髪が似合う長身のとても綺麗な人だ。

そして、その咲己さんがもたらした依頼は、人探し…なんだけど…

災禍亜流(さいか ある)。
男性、年齢不詳、国籍不明、写真嫌いにつきビジュアル的手掛かり無し……

って、これ…
どーやって探せと??


「ごめんなさい…こんな曖昧な情報で探せるはずないですよね…」

「はあ……まぁ」

咲己さんの言葉に、私は苦笑を返してしまった。


「本当は人に頼むつもりなんて無かったんです…けど、こちらのサイトを偶然見つけて…
それを見ていたら、どうしてもこちらにお願いしたくなってしまって…
変ですよね」

あー…あのサイトのサブリミナルの被害者なんだ咲己さん…
って事はやっぱり謎持ってるんだよね?この人

「…でも…もう一度でいいんです。どうしても彼に逢いたい…」

「…咲己さん…」


失踪しているのは彼女の恋人。一ヶ月程前、何も告げずにいきなり彼女の前から姿を消してしまったらしい。

彼にどんな理由があったにせよ…こんな最後なんて納得出来るはずがない。だから逢わせてあげたいんだけど…

私はソファの横に立つネウロに視線を投げる。

謎があるなら無理と思えるような依頼でも、間髪入れずに引き受けるこいつが…
なぜか口を挟んでこない。

彼女と会話をしているのはずっと私だけ…という非常に珍しい状況で…
ネウロは未だ顎に手をあてがい、難しい顔で彼女を凝視している。

まあ…探せる確証ないもんなぁ…名前だって偽名っぽいし。


――――と、
不意に押し黙っていたネウロが口を開く。
思いっきりの助手顔で。

「大丈夫です、お任せ下さい。先生はたとえサナダムシ一匹だって素通り出来ない程の情報網をお持ちです!
必ずや見つけてくださいますよ。ね、先生」

あ、やっぱ受けるんだ。

こいつが大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろう。今までだってそうだった。



「…ほ、本当に…?」

「はい、任せて下さい。
咲己さんの大切な人は、私達が必ず探しだします!
だから、元気だしてくださいね」

「ありがとうございます」


彼女はこの一ヶ月、一人で悩んで苦しんで…愛しいその人をたった一人で探し続けていたのだろう。
依頼の承諾を受け緊張が和らいだのか、大粒の涙をポロポロと零した。

彼女は何度もお辞儀をし、少しだけの笑顔を覗かせると…ここを去った。


私は、窓の前に立ち外を見詰めているネウロに、話しかける。

「ネウロ…依頼受けてくれたのは私としても嬉しいんだけど、本当に大丈夫?あんな情報で探せるもんなの?」

「…さあな」

「!さぁなって…あんたが大丈夫って言ったんじゃん!!」

ネウロは不意に立ち上がり、私の抗議の声には答える事無く…

「ヤコ、少し出掛けてくる。貴様はもう帰ってもかまわん」

「え?ちょっ、ネウロどこ行くの?」


…私の言葉をことごとく無視して、ドアから出て行ってしまった…



「…なんかヤな感じ…」

まあいいか、今日はこってりと宿題もある事だし、たまには早く帰って勉強でもしよっ。

「あかねちゃん、ネウロもああ言ったし、宿題あるから今日は帰るよ。
トリートメントは明日してあげるね」

あかねちゃんは嬉しそうに頷くと、髪を揺らしてバイバイをしてきた。
私もそれに手を振り返し、家路についた。






.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ