小説

□‡[再び]へ至る.
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「あ、ヤコちょっと待った!」

帰りの準備を終え、教室を出ようとしていた私の背中は、叶絵の声に呼び止められた。


「ん?」

「どっか寄ってかない?久し振りに」

「あれ…今日ゼミ休みだっけ?」

「ううん、あるよ普通に」


私達は高校2年になった。
将来の展望が著しい叶絵は、“玉の輿”を見据えての受験準備に余念がなく、
進級と同時にゼミに通い始めている。


「え、なにそれ…夢が逃げてくよ?」

「大丈夫、今日リフレッシュしとけば明日は二倍頑張れるからっ!…それにさ」

端から見れば現実主義者だけど、ある意味夢追い人でもある叶絵が、その握り拳に本気を滲ませながら、次の言葉を続けた。


「もう直ぐ夏休みじゃん…あんたどーせまたどっか行く気なんでしょ?」

「うん、勿論行くつもりだよ」

「あんたさぁ、頑張ってこの高校に入ったのに、進学しないなんて意味が分かんないわよ…
ホントにそれでいいの?」


いや、元々の受験動機からして私は異端児ですから・・・・それにね、
私の知りたいことは、机とイスが無くても学んで行けるんだよ。
だから、この身体と、今まで出会ったみんなから貰ったこの覚悟があれば、
どんな場所でも、どんな出会いでも・・・私は必ず、何かを学んで行けるはず。


「うん、もう決めたから。
だから、今経験出来る事は今したいの。
先延ばしになんてしたら時間が勿体無いでしょ?」

「時間が勿体無いか…よし、ならさっさと行動するよ!
ここは一発カラオケなんてどう?」

既にリフレッシュモードに切り替わったのか、コロッと表情を変えた叶絵がベタな場所を指定してきた。
勿論私もそれに異論なんて特にない。
だから、私達は制服のままでカラオケ店に足を向けた。




* * * * *


「いい部屋空いてて良かった〜!ひっさびさだよカラオケなんてぇ」

羽目を外す準備万端の叶絵は、受け付けを済ませたあたりから、既にテンションがオカシイ・・・・


「ああ…そういや最近は合コンもやってないんだっけ?」

「そ〜なのよ、だってこの時期に彼氏いたってどーせ遊ぶ暇無いからね」

ああ、なる程・・・需要が無ければ供給も必要ないか。
こういう、スパッと切り替えが出来るところが、実に叶絵らしいと私は思った。



その叶絵が、カラオケ店の狭い廊下を進む途中で振り返る。


「あ、ここだよヤコ♪」


・・・・・あ

ドアから浮き出てる“7”という数字に、私の心臓がトクリと鳴った。


間髪入れず脳裏に浮かんだ顔が、意地悪く口角を上げると、自己主張を始めたように見えた――――――

何よその顔・・・忘れてるワケ無いじゃん。
あんたに絡んだことの全て、どんなちっちゃなことでも、私はちゃんと憶えてるよ・・・・・



「…ヤコ、入らないの?」

既にドアノブに手をかけている叶絵が、動きが止まっていた私の注意を引いた。

「え?…あ、ごめん入「あれ、君ら2人なの?」

「へ…?」

室内に入ろうとしていた私の真後ろから、あからさまにノリの軽そうな声がかけられ、
とっさに振り向いた私の顔は、その声の主の胸にぶつかった。

「ぶっ!?」

な・・・なんなのこの超至近距離は!!?

「あ、ごめん…大丈夫?」

「ええ…まあ…」

そりゃ痛くはない、痛くはないけど・・・内心穏やかであるはずもない。


「急がないとドア閉められそうだったからさ…」

良く見れば、この人の手はドアに隙間を作るように、入り口の枠に添えられている・・・


「ねえ、女の子2人キリってのもあれでしょ…こっちも丁度2人だし、良かったら俺らんとこ来ない?」

え、これって所謂・・・

「なに、どしたのヤコ?ナンパ?……あっ…」

既に室内に入っていた叶絵が、話し声に気付きドアから顔を覗かせた。

マズイ。

いくら切り替えが上手い叶絵でも、本能レベルじゃどーだか分からない!
それによく見ればこの人、ノリは軽そうだけど、見た目はかなり整ってる感じがする・・・・
これは、叶絵がその気になっちゃう前に、何とか断らないと!!

「いやその…彼女はこの部屋がお気に入りみたいなんで遠慮しときます」

「あー、なんだそっか、んじゃ俺らがこっちの部屋に移動しよっか?「はい、是非ッ!!」


おぃぃぃやっぱりですか叶絵さん!!!!


「お、ラッキー♪」

「あっ…で、でもあのっ」

シドロモドロになりながらも、拒絶を試みようとした私を軽く無視し、
「ちょっと待ってて」そう言うと、長身に他校の制服の彼は、もう一人の友達を呼ぶ為に姿を消してしまった。


「聴いちゃいねえ…」

「さっ!盛り上げるよ〜♪」


さっきとは別の意味で握り拳に力を籠め、更にテンションを上げたように見える叶絵が再びソファーに向かう。
私はその背中に文句を言いながら追いかけた。


「ちょっ…待ってよ叶絵!今は需要無いんじゃなかった!?」

「うん、私は無いよ?」

は?無い?

私がこういうの苦手なの知ってるはずなのに・・・・んじゃどうしてよ!?



「お待たせ!」

「初めまして〜。うわ…2人とも可愛いなんてオレ達ってどんだけラッキー!?」


うっ・・・最初の人より更に軽いよ、この人・・・・・

叶絵の意味不明な行動に浮かんだ疑問符が消える間も無く、さっきの彼が友達を連れ、当たり前のように室内に入り込んできた。

そりゃこの人達にとったら当たり前で当然だろうけどさ・・・叶絵がOKだしちゃったんだから・・・


私はそんな心の声とともに、恨めしそうな視線を叶絵に向けながら、仕方なく、ソファーの空いていた場所に腰を下ろした―――――――






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