小説

□‡Possibility[可能性]
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■YAKO SIDE.

ネウロは、魔界へ帰ると言った・・・

そして私は、送り出す覚悟を決めた――――


忌々しいはずの上級魔人・・それを救う為に現れたとしか思えない下級魔人ゼラは、今その準備の為に、
この場所の真下へ・・事務所開設当初から、借主の付いていない空き部屋へと姿を消した。
そして今まさに私達の足元で、その門は着々と築かれ始めている。


だから・・・繋いでおこう。ネウロを地上へ、
今しか出来ない事を、限られた時間を余す事無く使って、最大限私に出来る事を。


「約束するよ」

・・・この言葉に変えて。

「私ももっともっと成長する」

ネウロが希望を繋いで行けるように。


「あんたがいつどこに帰ってきても…すぐに私を見つけられるくらい、輝くから」

そしてこれは、私自身をネウロに繋ぐ為の、未来への覚悟。


――――グイッ

「!!!」

「フハハハハハハハハハハハ」

襟首を引っ掴まれて、投げ飛ばされるのかと身構える間すらなく、私の身体は・・ネウロの広い胸に、押し付けられた。

 ネ・・・ウロ・・?


――――ドクンッ・・

ゆっくりな鼓動が私の耳に伝わる。
こんなに近くにいたのに、それは私が始めて聴いた音だった・・・


どんなに凄いパワーがあったって、

“生物である以上、必ず死ぬ…”

今確かに刻まれているこの鼓動が、昔ネウロが言った言葉の意味を、時を越えて伝えてくる。


 私は、失いかけたんだ・・この大切な命を。


知らずに籠もっていた掌の力は、その体温を移したシャツを握り締めていた・・・


「留守は任せたぞ、相棒」

「 うん 」


ネウロが繋いでくれた未来・・そんな事実は伝わらなくても、あんたが護った人間達は、
その手で、足で・・戻って来れる未来を必ず築くから。
だから今は穏やかに・・ただ穏やかに・・・全ての可能性を信じて、言葉を繋いでおこう。

私はネウロが横たわるソファーへ腰を落ち着けた。
それは、お互いだけを視界に収める距離で、体温の伝えられる距離でいたかったから・・


2人でぽつりぽつりと交わした会話は、何て事の無い雑談・・・
思い出話とか、お互いに向ける言葉なんてのはまるで出てこなかった。


だって、ここが終わりじゃないから。

例え、今更気付いてしまった感情があったって・・それは次に逢う時、進化した私が伝えればいいから。


「ぐへっ!!!!もう!一体いくつ仕込んでんのこのトラップ!!!」

「無限大だ」

「大体なんでこんな薄っぺらい壁から、こんな分厚いもんか飛び出してくんのよっ!!」

「何を今更…質量保存の法則など、既に貴様の胃袋が無視し放題だろう」

「人の胃袋をブラックホールみたいにいうな!!!」

「寝ようとする貴様が悪い」


 ・・・ネウロ

「門が出来る間暇なのだ、例え貴様の無駄口でも暇くらいは潰せるだろう」

「…無駄口無駄口ってさっきまで楽しそうに聴いてたくせに!」


まあ確かに、学校の話とか食べ物の話とか・・こんな時にあまり意味の無い話だとは私も思うけどさ・・
 ・・あ、そうだ、これだけは訊いておかないと。

「ネウロあのさ」

「なんだ」

「あかねちゃんの事なんだけど…」

「アカネか」

「あの魔界電池どれくらいもつの?」

「付ける対象によって、耐久時間はまちまちだが…」

「あかねちゃんなら?」

「アカネが必要とするのは生命の維持のみ。魔力として使うわけではないのだから…黙って3年はもつだろう」

「…そっか、3年か…」

「案ずるな、万が一電池が切れた場合は、貴様の携帯があるではないか。それに括り付けておけば問題ない。
まあ、バッテリー源は情報エネルギーのままだがな」

 マジで!!?

「データーの入力を怠りさえしなければ、貴様よりも長生きが可能だ」

「…が、頑張ります」

 …そっか、良かった。これで一番の心配も何とかクリアーできた。


私がホッとしていると、背後から金属音が響いた・・気がした。


「がはっ!!!!」

「ニヤッ」

「ちょっギブギブギブ!!ってなにこのチェーン太過ぎ!!!寝るどころかこれじゃ、お…堕ち…」

言葉を言い終える前に私の意識は遠のき、最後に眸に映ったものは・・細目られたネウロの・・・・碧眼だった―――



* * * * *
■NEURO SIDE.


極太のチェーンによるトラップで、意識を堕としたヤコ・・その身体は未だ鎖に繋がれ直立を保ったままだ。
ヤツとの戦いから一週間・・弱りきり昏睡に陥った身体を、ソファーから剥がし漸く立ち上がると、片方の革手袋を外す。


「…フン、この我が輩が、貴様の鎖を自ら解く日が来ようとはな…」

一本だけ変形させた指で、ヤコを繋いでいた鎖を切り裂くと・・・その身体は我が輩の腕の中に崩れて落ちた。


「―――解放だ、ヤコ」


完全に堕ちた意識にこの声は届いていなくとも、貴様になら理解出来るだろう・・この解放の意味が。


不意にドアをノックする音が響き、我が輩の頼みで口を拡張させたゼラが、回りきらない口調で門の完成を伝えてきた。

「ご苦労、直ぐに行く。貴様は下で待っていろ」

我が輩がそう命ずると、ゼラの足音は再び階下へと消えた。


 鎖など既に必要ない。


「ヤコ…貴様は自ら我が輩を選んだのだ」

今開いた魔界への門は、そのまま、我が輩と貴様が共に在る未来へと通じている。
それこそが貴様が選んだ未来・・・そして、我が輩が望む未来だ。


見下ろすヤコの唇からは、小さな寝息が漏れ始めている・・・・


「・・・・」


我が輩は、その身体を静かに床へと横たえた。


 ・・我が輩と貴様に特別な儀式など不要だ。


全ては可能性。
それを超えた先で道が再び交わるのならば・・・その時にこそ、違った繋ぎ方をすればいい。


声と、この眸に焼き付けた残像と・・・掌に、胸に残るその体温。刻み込んだ全てと共に、振り返る事無く・・・我が輩は、くぐり抜け慣れたドアを、完全に閉じた――――



* * * * *
■YAKO SIDE.


――――薄暗い事務所。


ふと目が覚めた私は・・・・・・独りだった。


空っぽのソファーと主のいないトロイが、その存在はもういないのだと・・・消えたのだと・・告げてくる。



来るとき
来てから
嵐のようにインパクトを残したのが嘘のように――
魔人探偵脳噛ネウロは、あっさり地上から消えていた。







そして――――3年後。



私の選んだ道は・・・私達で進む未来は


 ほら、すぐそこに―――――






Fin.
2009.04.15   

――――――――――――

   【後書き】
――――――――――――

本誌ネタバレ短文です。

いや〜初めて書きましたよ、本誌ネタ。
あ・・初めてではないか、『希望』も一応本誌ネタだったや。
まあ、リアルタイムな本誌ネタを書くのがお初って事でw

てか、どう書いていいのか全く解んなかったっス!!><
なので、本誌の台詞になるべく忠実に(結構台詞端折ってますが)、
九印が付け加えたのは勝手にこじつけたモノローグって感じですね・・
もう短文って呼べるのかすら解りません…orz

しかも全く甘くない。
あれです、本誌の2人を念頭に置いて書くと、キスさせるのも至難の業なのだと今知った!
で・・・結局清い2人でございました。

つーかですね、本当に書きたかったのは、目覚めたヤコの傍にあるチェーンが切れてる理由と、
ネウロがどうやって魔界から戻ってくるか・・って辺りだったんですが、
長くなり過ぎるので、今回はチェーンをメインにしてみました。

ネウロが戻ってくるとこ限定でまた書きたいな。
九印の事だから話破錠するだろうけどw


九印の妄想にお付き合いくださった方、今回も有り難うございました!!


【後書き:了】@九印.
 

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