□タカラモノ:文□

□『伝える言葉』【エーコ様作品】
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キスされた場所が熱い。皮膚の奥底まで焼かれるような灼熱の。
わからない、わからない。
ネウロの唇が刻む熱の理由も、肌を滑るネウロの唇が柔らかな理由も、そもそも……ネウロが私に口付ける理由も。
「ねぇ……なんで……?」
言葉にしなきゃ、わからない。
私たちは違うのだから。
それなのに、返されたのは視線。
私の目を見つめるネウロのそれは燃えているように強烈な光を湛えていて、さらに問い掛けようとした私の言葉を奪う。
私の唇にネウロの唇が触れて、その隙間でネウロの熱い舌が唇を柔らかく舐める。
ゆっくりと動くそれの合間に下唇を甘噛みされて、胸が騒がしく疼いたから、目をぎゅっと瞑った。
「唇の力を抜け……」
唇の間近で囁く、透き通るようなテノールボイス。
普段と違う、なのに助手声でもないそれに浮かされて、恐る恐る目を開けると、ネウロの掌が私の頬にそうっと触れた。
……なんで、そんなに優しいの?
それなのに、こちらを覗き込む緑の奥にはギラギラゆらめく炎が見える。
ゆるゆる撫でる頬への愛撫と、刺すような瞳の強烈さのギャップに呆気にとられて、思わず力の抜けた私の唇を、もう一度柔らかく舌が撫でて、そして割って這入ってきた。
熱く濡れたネウロの舌先が歯列を丁寧になぞる。
重なる唇が角度を変えて、まるで適切なパズルのピースのように、そこに嵌まるのがあたりきであるかのように、深く深く沈む。
緩くゆっくりと舐め回される口内で私の舌が所在なくぐったりして、やがてネウロの舌とぴったり重なるまで、ただただ意識が翻弄されていた。
ちゅっ……
鳥が囀ずるみたいな音を立てて、ネウロの唇が離れる。途端。
「んぁ……」
自分のため息が間抜けな声になって発せられたのに、思わず笑ってしまった。
「我が輩、心外だ」
少し憮然としたネウロの声。
「こんなにも貴様を……」
言いながらネウロは上体を屈みこませて、私のシャツから覗く鎖骨に唇を這わせてくる。
「煽ってるつもりなのだが……」
ボタンがまたひとつ、外された。ブラ、見えちゃうなぁ……。
するりと胸元にネウロの皮手袋の右手が滑り込んでくる。内心、ものすごく焦っているのに、抵抗ができない。
だってこんな触れ方、まるでネウロじゃないみたいで、なにを言ったら良いのか、どうしたら良いのかが、判らない。
「……貴様はまるで豪雨の中で屋根の下にでもいるかのような大人しさだ」
「だって、あんたにこんなふうに触られたことないし」
ネウロの指がブラのストラップを肩から落とすと、途端に胸の谷間が頼りなくなる。
あっ、と声を出す間もなく、グッと肩を掴まれ、ふくらみの深く柔らかいところからべろんと舐めあげられた。
「我が輩以外にはあると?」
こちらを見上げる目に少しだけ剣呑な翳り。
……なんで、そんな目をするの?
もう一方の手がシャツの裾から滑り込んできて、指先が、背骨をゆっくり確かめるみたいにして上がってくる。
「カラダ、触られたりは、ないよ?そうじゃなくて……」
こんな、絡めとるみたいな。
背骨を昇ってきた指先がぷつん、という感覚を背中に生むと同時に、胸を締める感覚がなくなる。ホック、外された……。
そのまま肩甲骨のあたりをするすると動いて……。
「みたいな、ではない。事実、絡めとっているのだ」
胸のふくらみに撫でるように唇を這わせていたネウロが、ブラの中心に噛みついて、そのまま顔を引きあげた。するっと抜き取られる。
「……なんでそんなに手慣れてるの?」
「そこらの無駄撃ち男共と一緒にするな」
ブラが床に落とされる。ストラップ、切られてないかな。っていうか、無駄撃ちって。
「この程度のもの、傷付けずに解体するのは呼吸をするより容易い」
言いながら、掴んでいた肩をするりとひと撫でして移動してきた手が、もうひとつ、ボタンを外した。
「……ねぇ、なんで……」
「貴様は先程から問うばかりだ」
忌々しいとばかりに唇を塞ぐ唇、差し入れられる舌が生ぬるく濡れていて、私の舌に吸い付いて絡んで吸い上げられた。

◆伝える言葉・2◆

シャツの上から私の胸を包むネウロの掌。
ふくらみを潰さないように包むように撫でる動きに、自分の曲線が乏しいことを思い知らされる。
「ね……ん、あ……ネウロ……」
カラダを離したくても、背中にまわったままの左手が許してくれない。
右手は私の左胸を脇から優しく寄せあげて、その親指がその頂点をシャツの上からスルスルと撫でて。
「あ……あぁ……」
撫でられた部分がくすぐったいような痺れを感じて、腰の奥にジンとした疼きが生まれて、口からは出したこともない声が漏れる。
優しい、キモチイイ、勘違い、してしまう。
必死に両手を青いスーツの背中に回して、生地を掴んで引き剥がそうと引っ張る。
「ネウロ、やだよ」
「黙れ」
唇の隙間に声が響くのがくすぐったい。
「なんか……ん……やだってば……ぁっ……」
伝える言葉。
本当に嫌なのは、判らないまま、隷属させられたまま、奪われる事。
そして、そういうものだと諦めて、受け入れてしまう事。
それなのに、こんなふうにされたら、勘違い、してしまう。
ネウロが、私を、奴隷じゃなくて……その。

唇を啄むように口づけていたネウロが、ふっと私から両手を放す。
突然の解放に少し安堵した途端、握っていたネウロのジャケットがスルッと滑り落ちる感覚に驚いて目を開ける。
いつのまにボタン、外していたんだろう……期せずネウロを脱がせてしまったことに吃驚する。
ネウロを見ると、目許に、口許に、にぃまりと悪い笑みを浮かべている。
そして、お返しだ、と呟くと、シャツをグイグイ広げられて、肩を無理矢理剥き出しにされた。
……お返しって、ネウロが仕組んだことなのに。てかボタンはまったままだと腕に布が食い込んで痛いってば!
思考がいつものペースに戻りかけた瞬間、ネウロと目が合った。
悪戯めいていた瞳がすうっと細められて、一瞬、それは酷く涼しげに、静かに、なったように思えた。のに。
突然、喉元に食らい付くように口づけられて、押し倒された。

残りのボタンを右手で外しながら、性急になった舌と唇が、首から鎖骨を辿って貪るように食んで降りてくる。
シャツの前を解放した両手は唇の激しさと正反対にするすると、肩から滑り落ちて両胸をゆっくりと揉みしだき、脇から腰のラインを滑り落ちて背中に滑り込んだ。
あまりの豹変にフリーズした頭がやっと抵抗のサインを出し始める。
「ネウロ……っっ」
両手でネウロの両肩を押し返そうと力を込めた途端、胸の頂にたどりついたネウロの濡れた舌先は、そこを執拗に舐め回した。
「ぃあぁ……ふっ……ん……」
鼻に掛かった声が勝手に漏れて、力が抜けてしまう。
間髪入れず、両手を一纏めにされて、黒皮の手袋の左手が拘束した。
「ぁ……だめっ、こういうことは……あぁ……誰と……どういう気持ちでするかが大事で……あっ」
言いながら、それでも抗い続けて、せめてネウロの舌から逃れようと体を捩る。
余計に脱げるシャツ、乱れるスカートの裾。
そのスカートにネウロの右手が滑り込んできた。
両足を慌てて閉じるのも間に合わず、腿の内側を撫で上げられる。宥めるように、煽るように。
それでも抵抗を諦めないように、腿から奥へ進ませないために、あわてて両脚に力を入れて擦り合わせてネウロの手を阻みながら、更に言いつのる。
「っ……そ、れに……奴隷扱い……で、こんなの、嫌……っあぁっ」
舐められて敏感になった胸の尖端を柔らかく噛まれて舌先で転がされて、語尾があられもないものになった。
嫌だ、ネウロ。だって、こんなの……私だけが……あんたを……。
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