□タカラモノ:文□
□『自覚』【柳沢セイ様作品】
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なぜだろう、涙が溢れて止まらない。アイツが居なくなって、精々する筈なのに。一日中ボーッとして、気が付くと涙ぐんでる。
「アカネちゃん?」
お下げがあった場所を振り仰いでも、そこにはアカネちゃんは居ない。ネウロが謎を食べると、アカネちゃんは消滅してしまったのだ。
空っぽの事務所で、私一人トロイに凭(もた)れている。
悲しい。虚しい。寂しい。どの言葉も、今のこの気持ちを表せない。
私ったら、どうしちゃったんだろう?
トロイに俯せて、過ぎ去った日々を思い出す。DVばかり受けていた筈なのに、思い出すのはアイツのアルカイックな笑顔だけなんて。
体力回復の為に、魔界に帰ってしまったネウロ。私の心もこの事務所のように、空っぽになってしまったみたい。私って、こんなにもアイツに依存してたんだなあ。これからどうやって生きて行こう。
『すぐに戻る』とネウロは言ったけど、それはアイツの時間軸の話。私が生きている内に、また会えるのかなあ…。やだ、また涙が出て来ちゃうよ。この気持ちは、やっぱ恋なのかな?
『このミジンコが』
やだ、幻聴まで聴こえてきた。私ったら、重症だ。
ネウロ、早く帰って来て。そしたら私、きっと言うよ。アンタに「好きです」と。
***
いつの間にか、うたた寝をしていたみたい。
目覚めた私の目の前には、見慣れた青いスーツが。
「ネウロ!」
「主人の留守中に惰眠を貪るとは、よほど仕置きがして欲しいとみえる」
つり上がった口角も、髪に付いた三角も、相変わらずのドS発言も、何もかもが元のネウロだ。
「早かったんだね」
「当たり前だ。魔界に謎は無いからな」
私はゆっくり立ち上がる。
「さあ、謎を探しに行くぞ」
差し出された手を取れば、グイと引き寄せられた。
胸元のスカーフが頬に当たる。
「ネウロ?」
見上げれば、真上にネウロの顔。
「なんだ?」
「私たぶん、アンタのこと、好きだよ」
「なんだ、今ごろ気づいたのか?」
頭上でくつくつと笑う声がする。
「我が輩はとっくに、貴様の気持ちに気づいていたぞ」
頬が、かあっと熱くなる。
脇に手を差し入れて、抱き上げられる。
「ひゃあ」
「愛しいご主人様が帰ってきたのだ。なにか言うことがあるだろう?」
「…おかえりなさい」
首筋にしがみついて、サラサラの髪に顔を埋める。
「ただいま、ヤコ」
耳元でテノールが囁いた。
END.
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柳沢様より、脳味噌の一周年記念のお祝いで頂いちゃいました!
リクエスト内容は、弥子がネウロに対する気持ちを自覚するお話です。
本当に柳沢様の優しい文章が胸にキマス><
そしてやっぱり、弥子には『おかえり』って言って欲しかったっス!!
柳沢様、本当に有り難うございました!!(低頭