□タカラモノ:文□
□『雪路に待つは…』【七世様作品】
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『雪路に待つは…』
夕べから降り続いていた雪のせいで、学校が休校になっていた。
「マジですか…」
ガックリ肩を落とす。雪道を散々すっころびながら歩いて、やっと辿り着いたと言うのに。
このまま事務所に行くのもねぇ…。
考えていると、同じように休校だと知らずに来てしまったクラスメイトが居た。
適当に会話を交わしていると、学食の平野さんが私を見つけ、今日の分で食べきらなきゃいけない食材が山とある、と言うので、私はクラスメイトにあっさり別れを告げ、平野さんと学食へ。
さっさと事務所に行けば良かったのに・・・
「ヤコちゃん、有難うね、食材が無駄にならずに済んだわ」
平野さんがニコニコとお礼を言う。
「私の方こそお礼言わなきゃ♪お腹いっぱいで幸せ〜。すっごく美味しかったですよ!」
最後に紅茶までいれてくれて平野さんて、ホントに良い人…。
「あら…ヤコちゃん、雪また降って来たわよ…?早く帰った方がいいかもね」
確かに、窓の外はチラチラまた雪が振り出し、分厚いねずみ色の雲が空を覆っていた。
私は、急いで学校を出た。
「ヤバいな、これ…。傘くらい持って来れば良かった…」
朝、家を出た時は止んでいたから傘は持って来ていない。
どんどん激しくなる雪に、目を開けていられなくなる。
プップーと背後からクラクションを鳴らされ、反射的に振り向いた。
「ヤコちゃん?傘もささずに何やってんの…?」
顔に張り付いた髪の毛を剥がして声の主を見る。
「笹塚さん…!」
助かった…!
ひとまず救助して貰おう!
当然の様に、笹塚さんは直ぐに車にのせてくれた。
「すみません、お仕事中に…。今から事務所に行くつもりだったんですよ…」
ハンカチで顔をふく。頭からも雪の溶けた雫が落ちる。
「これ使いなよ。多分…新品だよ。」
笹塚さんはダッシュボードから袋に入ったタオルを出してくれる。
その時、笹塚さんの姿勢が私に傾き、微かな煙草の匂いにドキリとした。
「有難うございます…」
私は気付かれないように、受け取ったタオルを頭からすっぽり被る。
「こんな雪…珍しいな…」
胸のポケットから煙草を取り出し、呟く。
「ですね…。」
雪は止みそうな気配がない。
「参ったな…」
「どうかしました?」
「ほら…雪のせいで街中も渋滞だよ…。こんな感じじゃ、ヤコちゃんの事務所まで、どれくらい時間が掛かるかわからねーな…」
確かに信号待ちをしてる車の数が半端ない。
「電車やバスがなかなか時間帯通りに動けないから、タクシーの数がすげーな…」
私はぼんやりと雪に煙る街の景色を見ていた。
ネウロと出会ってだいぶ経つけど、ネウロは雪を見た事あったかなあ…。
無かったよね…?
勿論、あの魔人の事だ。知識としては間違い無く知っているだろう…。
止んで欲しい雪なのに、止んで欲しくない。
このフワフワと白い雪が天から降ってくる光景を私はネウロに見せたいな…
いや、もう見てるだろうけど…
一緒に見たいな…
どうせ自分が知ってる知識を偉そうに、物凄い上から目線で説明するんだろうけど。
歩いて事務所に行こう。
まだ時間的には充分早い。今から歩けば遅いと貶される事も無い筈だよね。
笹塚さんにお礼を言おうと口を開きかけた時…
「ヤコちゃんとこの…胡散臭い助手ってさ、超能力でも使える訳…?」
「は???」
「見てごらんよ、窓の外…前から歩いて来るあの真っ青なスーツ…」
驚いてフロントガラスの曇りをタオルで拭うと…見間違う訳も無い、青いスーツの長身が此方へ向かって歩いて来る。
真っ白な雪に、魔人の青が冴える。
「ネウロ…?」
なんで…?
まだ事務所に行くには随分と時間がある筈。
あ、たまたまこっちに何か買い物にとか…?あのネウロが、雪で歩きにくい日に…?
「さて…と。俺はもうちょっとヤコちゃんとドライブしたかったけど…アイツが許してくれなそうだな…」
ふぅっと煙を吐き出しながら笹塚さんは、ロックを解除した。
「笹塚刑事!!またしても先生がご迷惑をお掛けしたようですね?」
助手席のドアが開いたと同時にネウロの声が飛び込んで来る。
「ネウロ…ぐはっ…!」
笹塚さんから見えない位置に一発入れられた…(泣)
「ホントに困った先生で申し訳ない!ほら先生もボサッとして無いで、土下座踊りを笹塚刑事に披露してからおいとましましょう!」
「Σ土下座踊り!?そんな踊りあってたまるかぁっ!あ、ああ、うん…あれだよね…うん…また今度披露するよ…」
ネウロの指先が腰に当たっている。
感じからして多分かなり尖ってる・・・(汗)
多少呆れ顔をした笹塚さんだったけど、
「じゃあまたな、ヤコちゃん」
とだけ言って車をUターンさせ帰って行った。
「ネウロ?なんでこんなとこに居るの?」
ネウロは忌々しげな顔をして、明らかに聞こえるように舌打ちをした。
「貴様・・・。何故連絡を寄越さないのだ…?」
「何の?だってまだ全然いつもより早い時間だよ?」
大袈裟なくらいの溜め息をつくネウロ。
何よ…?
言いたい事があるならはっきり言えば良いのに…!
「我が輩、今朝から貴様を見ていたぞ…。
不様に雪に脚をとられては何度も転んでおったな?」
う〜っ///!!またフライデーで見てたのかよっ!(恥)
「仕方ないじゃん!雪なんて慣れてないんだもん…歩き難いんだから!」
私の顔をマジマジと見たネウロは、あきれた様に言った。
「貴様は雪に迄翻弄されたいのか?全く、筋金入りのマゾっ子だな…」
Σち が う か ら!!
「ならば…何故我が輩に助けを求めない…?」
え?
ネウロを見ると面白く無さそうに、ふんと鼻を鳴らし。
「先生は笹塚刑事にならば甘える事が出来て、毎日一緒にいる僕を蔑ろになさる…」
何それ・・・
突っ込めない私。
スタスタと雪なんか意に解さず歩き出すネウロに私は慌てる。
それって…焼きモチなの?
そんな事を言えば命が危ないな…。
じゃあ…ちょっとは甘えてもいいの…?
私はネウロに向かって走り出そうとして
コケた・・・。
滑ってしまった。
見事に顔面を強打してしまう。
「貴様は何をしているのだ…」
呆れた様子のネウロが私を引き上げる。
「フハハ!ヤコヤコ!雪と泥が貴様に付着して、なんとも不細…」
私はネウロに抱き着いてやった。
ネウロが不細工だと言おうとした顔をネウロのスーツにゴシゴシ押し付けて。
「貴様・・・何をしている・・・」
「私、歩けない。手くらい引いてよ…」
驚いたネウロの顔は…
本人には言わない…いや、言えないけど。
間抜けで可愛い、素のネウロ。
残念な事に一瞬で表情は変わった。
いつものドS顔で私に囁く。
「何なら、抱いて行って差し上げます…。手を繋ぐのとどちらが宜しいですか?先生…」
うう…///
ネウロには勝てないや…。
じゃあせめて。
この雪のせいにしてみよう…。
「手を繋いで下さい…」
そしてネウロは、極上の笑顔で私に手を差し出した。
雪に魔人の真っ青なスーツがやけに鮮やかで私は目を細めた。
(終)
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日常の延長線上にある、ちょっとした+αな嫉妬とかラブラブが、妙に胸キュンしちゃうんですよねぇ(テレ
そんな九印は勿論胸キュン大好物ですっ!
七世様、これからも宜しくお願いいたしますっ!(低頭
【九印.】