□タカラモノ:文□

□『EST EST EST』【夜桜碧海様作品】
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「いだあああいいっ!!」
「もう限界か?」
「ギブギブ!中身出るっ!」
「ほう、出る程中身が詰まっていたのか」
そう言いながらもネウロは手の力を緩めた。
「それで、貴様は結局何を言いたいのだ?」

事件現場からの帰り道、連れだって歩いていた弥子がネウロにぶちぶちと話し始めた。
しかし、ネウロにとって弥子の話は抽象的で要点を得ず、意図が見えなかったのだ。
弥子は涙目になりながら、ネウロを見上げた。

「・・・ちょっとは、普通っぽくしてみたいと思ったの」
「普通?」
ネウロは柳眉を軽く寄せた。
「貴様の言う普通とは何だ。定義がさっぱり判らん」

「手、繋いで歩こう?」
弥子の言葉に一瞬表情を曇らせる。
それでもネウロにしては珍しく、すぐに手を差し出した。
弥子はその手を取らず、視線を落としネウロの手を見ている。

「どうしたミジンコ?」
「・・・手袋、とってみて」

見上げた弥子にネウロが言い放つ。
「断る」
「どうして」
弥子が唇をとがらせる。
「触れてたいの、ネウロに。直に体温とか感じたいと、普通は思うの」
「その行為に何の意味がある?」

「・・・ネウロには、わかんないよ」
「そうか」

ふっつりと黙り込んだまま、二人は並んで歩く。
弥子は、唇を噛み締めている。
ネウロはそんな弥子を視界の端に捕えながら、内心淡い溜息を付く。

この手袋一枚外したところで、何も変わりはしない。
何も。

異なる種族であること。
感情も体も何もかもが違う生物であること。
それらに勝手に壁を作り、
『わからない』
その言葉一つで壁を築いているのは、貴様の方だ。
誤解するほど理解もしない。
そうだろう、ヤコ?

我が輩が触れたいと思っているのは、表面の薄皮一枚ではない。
こんな手袋を外した所で何になる?

体温に、肌の感触に安心感を求めるのは勝手だが。
そんなものは欺瞞だ。
その温さに互いの距離を感じるだけだ。

ネウロは空を振り仰ぐ。
触れたい。でも、触れられない。
腕を少し伸ばせば届く距離にいるのに。
叫びたいほど、望んでいるのに。

欲しいものは、望むものは。
ここに、此処に、在るというのに。


Fin.
――――――――――――

夜桜碧海様から、九印の誕生祝いとして頂きました!

私の好きなジャンル(切ない系)を、ちゃんと覚えてい書いてくださり、本当に有難うございました!

…他人を理解するってのは難しいですよね。
種族が違えばその倍数は如何程か…
それでもこの二人には、魂レベルで繋がっていて欲しいものですっ!


【九印.】
 

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