(雲雀恭弥×男主)
*付き合い始め。好き、ほろ甘め。



最初はただの気紛れで踏み込んだ屋上、そこにいた雲雀の特等席、気付いたら俺も通うようになっていた。それも出入り口の真上、更に梯子を使って登る正方形型の立体で、身長より高くて大きな貯水タンクが腰を据えていた。一人寝転がるスペースがあるかないかくらいの、そこに、授業サボりの俺と雲雀が肩を並べる不思議な日常。


に触れた、い約束。】


雲雀には危ないからやめろ、馬鹿と煙りは高いところが好きなのかい?とよく傍らで小言を言われたが(ヒバードは可愛いのに飼い主と来たら)――それを言ったら、お前はどうなんだ。いや、殴られるのが目に見えてるから言わないけどな。気付くと一緒にいることが多くなって、単純に俺と雲雀が同じタイミングで授業を抜け出しているだけなのだが、回数を重ねる毎に妙な心地よさが二人の間に生まれつつあった。

「君の髪と目の色、嫌いじゃない」
「なにそれ、口説いてんの?」
「馬鹿」

こんなやりとりは少なからず毎度、でも、雲雀から手を出すことは無かったし、俺から特別求めることも無かった。あの、トンファーを握る手、人を殴ることしか知らないような(しかも強い)指先で、羽根を休めるヒバードが羨ましいと思うことならしばしば。ああ、ずるい、なんて、小鳥に嫉妬する日が来ようとははいざ知らず。

気付いたらメル友の仲になっていて、突然中学校の見回りに行くとメールが来てから早数分後。家を抜け出して校門に駆け付けた俺は、門を飛び越えようとする雲雀の後を追い、屋上の定位置に落ち着いた。

すると数分もしない内に上り階段の途中で別れた雲雀もやってきて、見回りはどうした、と問い掛けに雲雀は、もう終わった。と返すばかりで、まあ、そんな日もあるかと深くは追及しなかった。特に校内全体を見回ったわけでもなさそうだし、こんな短時間でこなせるものなのか不思議だった。


地上から見上げる星よりも、夜忍び込んだ学校の屋上から見上げる空の方が明らかに近い。ちかちかと頭上で輝く星屑。隣を見れば今にも夕闇に溶けてしまいそうな黒い頭、肩に掛かる学ランは夜風ではためいて、やけに白い肌が裾から見え隠れした。

「雲雀」
「何?」
「俺、やっぱりお前のこと好きかも」
「ふぅん……咬み殺されたいのかい?」
「うん」

ぽつり、と唇をつついた気持ち。

自分から振って置いて、あまりにも素っ気なく返し過ぎただろうか。少しの沈黙があって、横目に盗み見た雲雀はじっと遠い目で宙を見つめたあと、俺を見て、ゆっくり、ゆっくりと片腕を伸ばしてくる。

「わ…」

あの、触れられたいと願わずに言われなかった手が、俺の髪に優しく触れて、目尻から頬をなぞる。てっきり乱暴に触れてくると思いや繊細なタッチ、つぅっと首筋へ指先が伝うこそばゆさに――驚きではない感嘆の溜め息が唇から細く漏れた。俺は雲雀の手首を手探りで掴み、自分の頬に寄せて離れないようにぎゅっと力を込める。

「雲雀、恭弥?」
「いきなりフルネームは気持ち悪いよ」
「ふ…じゃあ、恭弥…きょーや。好き」
「…………」

何度かそうやって呼んでいると、そこまで気のなさそうだった雲雀の目がみるみる見開いて、煩わしい殺したい咬み殺してやる―――とは真逆の、感情が目で弾けた。ぱちぱちと瞬いた瞼の奥、星屑を映す雲雀の瞳がきらりと一瞬光って見えた気がして、俺はもう一度だけ「恭弥」と呼んだ。

「僕は、女の子じゃない」
「知ってる。それを言うなら俺だって下は生えてるけど胸はないし、咬んだって美味くねえ硬い肉質だろ?」
「不純な同性交際は風紀を乱す」
「手を繋いで、隠れてキス、デートをする健全な付き合いはどうなんだ。それ意外の、お前の言うそれ以上が適用されるのはいつだ?」
「高校卒業」

あまりにも雲雀らしい基準に、俺は笑いを隠すのが精一杯だった。健全と言えば確かに健全で、小刻みに震えそうになる腹筋がばれやしないか冷や冷やしていると、物思いにふける雲雀の目が俺を何度かちら見して、唇を一文字に結んだ。

雲雀の恋愛観はどうなんだろう。

ふとした疑問だった。意外とどちらもいけるバイの人は多いと聞くけど、実際は、もしかしたら女の子が好きなのかもしれない。言い訳をするなら、屋上で雲雀と出会わなければ、少しだけ気になっていた同じクラスの女の子に走っていただろう。

気付いた時にはその女の子の名前も思い出せないし、今、俺の隣にいるのは雲雀だ。きっと雲雀も今、何か答えを見つけるために自分の中の自分と話してるに違いない。そこまで考えて、雲雀を見つめて、すごくすごく胸がむず痒くなった。





「じゃあ、待つ」
「なに、君Mなの?」
「ん、惚れたもん負け…で許せよ」
「逃げない?」
「逃げない。そん代わりキスして」
「…………」
「高校卒業する日まで待ってるから」
「なにそれ」
「予約。今言わないと後悔しそう。だから恭弥……迷ってるなら俺にしねえ?…な、気に入らなくなったら咬み殺して」

答えは、瞼を伏せて、三秒後。


END

 ・・・・・ 

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