製作者の小説

□幻想の大陸-第2話
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周り一面、赤色に包まれた空間。
上面は黒色、いや所々に赤色と白色が混ざってる…これは、忌まわしき記憶…
自分のよく知る人々の悲鳴と、誰のとも分からぬ断末魔…そして続く複数の男の下卑た笑い声。
炎と悲鳴に彩られた幻想的な地獄。
そこに少女がいた…エスセティア大陸にある国境ちかくの小さな村。
それが今、この世の地獄。
そして、その地獄にいる少女。
この状況は少女の心をボロボロにし、粉々に砕いてしまう。
それだけではない、少女は目にも深い傷を負っているようだ…。
目が見えぬ状態でひたすらに地獄をさまよい続ける少女。
少女は必死にもがく。
逃げようと、あるいは助けを求めようとして…

―――その時、馬が地面を蹴る音が少女の耳を満たす。

先ほどから既に悲鳴は聞こえなくなっている。
そして男達の怒声も笑い声も…確かあの男たちも馬でやって来たはず。
私達の村をめちゃくちゃにして、笑っていた。
きっと捕まれば…死ぬ。
少女のわずかに残っていた生きる意思が萎んでいく。
目の見えぬ少女は死を覚悟し、生きる事を諦める…。

「おい! こっちだ生き残りがいたぞー!」

目も見えぬ状態だ。
それが敵であるかどうかもわからない。
糸が切れた人形のように少女の体が地面に倒れこむ。
恐らくは絶望と諦観とで、あるいは死を受け入れたからか抗えないと悟ったからか…とにかく、彼女の身体は立っている事が出来ずに地面に臥してしまう。
ぼやける意識の中、かすかに聞こえる声と自分の体が持ち上げられる感覚。
それを残して彼女の地獄は幕を引いた……。

―――――ガタンッ!

「!」

目隠しをした女性が目を覚ます。
ここは戦場に向かう馬車の中だ。
先ほどの揺れは恐らく車輪が大きめの石を食んだのだろう。
同乗者が起きた様子もない。
空は、白んでいる。
夜明けの時刻ということは昼頃には着くかな、という予想を立てる。

(久しぶりに見たな…、あの夢)

酷い夢見の悪さにもう一度寝る気もおきず、ひたすらぼんやりするのであった。

(地獄、か・・・)

そう、まさしく地獄であったのだろう。
悲喜交々まさにそれを絵に描いたようで、地獄から抜けることができたのは単に偶然が重なっただけの奇跡。
そもそも、何故自分の村が襲われなくてはならなかったのか?
いくら考えても答えはでない。
…いや、答えはある。
助けてもらったときにその答えを聞いている。
たまたま通りかかったカセドリアの部隊に助けられた私は、治療してもらった時に答えを聞いてしまっている。
ただ、私がそれに納得出来ないだけだ。
国境近くの村は戦争時にとても狙われやすい。
その場所を拠点に出来れば僅かではあれど食料と休める場所、そして敵の進軍をいち早く知る事ができるからだ。
それは、片方にとってのメリットであって、もう一方にはデメリットしかない。
もう一方にとっての不利益しかもたらさないモノを残しておく必要がどこにあるのか?
というのが命の恩人からもらった答えだ。
だけれど、納得出来ない…。
筋は通ってる。
きっと信じるに値する説得力はあると思う。
でも…何故か信じる事が出来ない…どこか嘘臭い。
目の見えぬ少女の、目が見えぬからこその直感と言うべきか…。
今でも、あの部隊員たちを疑い続けている。
実は本当に彼らが正しくて、私が間違っているのだろうか?
いつまでたっても答えの出ない問題を抱えたままに、カセドリアに居れば何かの答えを見つけられるかも知れない薄い望みを捨てきれずにいる…。
煩雑とした思考をぐるぐると廻し続けて、気が付けばいつの間にか同乗者の男が起き出していた。

「よう、姉ぇちゃん。良い朝だな。」

開口一番、アクビ混じりに挨拶をしてきた。
さて、何か返さなきゃ行けないのだけど…こんな事を考えつつも口が開く事はない。
念の為、補足しておくが彼女は目が見えないだけで話すことは出来る。
彼女が口を開かないのは単純に他人と交流を持つのが苦手なだけだ。
そうこうしている内に返事を得ぬまま男は3人目を起こし始める。

「おらっ! いつまで寝てやがる! 時間は無限じゃねぇっていったろうが!」

そう言って彼を叩き起こす。

「うわぁっ!」

よほどびっくりしたのか跳ね起きる彼。
男は跳ね起きた頭をカウンター気味に叩く。

「いたっ!」

「情けない声出してんじゃねぇよ。」

ブツブツと文句を言う彼とソレを見て豪快に笑い激を飛ばす男。
軽いデジャビュを感じたが、多分間違いではないだろう。
事実、二人は同じやり取りを繰り返している。
それに気付いた時、彼女は込み上げる感情を抑える事ができず、クスクスと笑みをこぼす。
それを見て彼は顔を赤くし、男はそれを見て笑う。
そして、また彼女が笑い、彼も釣られて笑ってしまい、暫しの間、三人は理由のわからない。だが、決して不愉快ではない感情を共有するのであった。
始まったのが突然なら終わるのも突然だった。
誰ともなく笑うのを止める。
数瞬の沈黙が訪れるかと思われたが…

「なぁ、姉ぇちゃん。いっこ良いか?」

男の声が沈黙を許さない。
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