製作者の小説
□幻想の大陸-第1話
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カタカタカタ、ガタン、カタカタ・・・見渡す限りの平野の中に一筋の道。
その上を3台の馬車が行く。
その中のひとつに彼はいた・・・。
「………。」
誰も口を開くことのない馬車内で彼もまた口を開かない。
彼はカセドリア連合軍の新米兵士。
1週間ほど前に徴兵された、正真正銘の新米だ。
長年続く戦争において戦争に参加するどの国も致命的な戦力不足に陥っている。
カセドリアもしかりだ。
そんな状況の中、新米である彼が向かう先はやはり戦場であった。
ろくな訓練も受けていない彼は、なんともお粗末な杖を渡されて適正があるという理由だけでソーサラーとして死地に送り込まれる事となった。
「…くそ、なんでこんなことに……。」
馬車の中には彼を含め3人。
補給物資と共に運ばれるのだ。
広くもない馬車内に荷物と一緒に詰め込まれているのだ、悪態の1つもつきたくなるというもの。
だから、それを言うのはいい。
だが、誰にも聞かすつもりはなかった。
だけれど、広くない馬車の中だ。
ゆえに、聞こえないはずもなく一人の大柄な男が反応してきた。
「よぉ、にいちゃん。 戦場は始めてかい?」
「………。」
聞かれていたのが不快だったのか、それとも押し隠せぬ恐怖からか彼は答えようとせず押し黙ったままである。
それを見た大柄な男は豪快に笑い、豪快な声で言う。
「なんだぁ?ビビッて声がでねぇってか?安心しろよ、敵さんはまだまだ遥か遠くだぜ!まぁ着いたら着いたでどっから湧いてくんのか、うようよ居やがるがな!」
そして、また野太い声で笑う。
かなり、うるさい。
その笑い声に驚いたのか馬車引きの馬が嘶いた。
みれば、相当に場数を踏んだように見える。
少なくとも彼のように新米ではなかろう。
おもむろに彼は口を開く。
「…僕は、僕は死ぬんでしょうか?」
単純な、そして彼の不安を一言で説明しきる言葉だ。
それを聞き、大柄な男は
「まぁ、そのなりじゃあ恐らく戦場じゃ即死だな。」
付き放つように言った。
彼は予想していたのだろうか、わずかなショックの色を残しつつも冷静ではあった。
諦めもあったのだろうが・・・。
「おいおい、おまえさん。まさか、前線に突っ込もうって気か?なら、止めとけ。さっきも言ったが何の役にも立たない役立たずだろうが、いても死んで邪魔になるだけだ。」
「じゃぁ!じゃあ、どうしろっていうんだよ!」
あんまりな物言いに声を荒げてしまう。
しかし、男は気にした風もなく何気なく言葉を吐く。
「あぁ?しらねーよ。裏方でもしてろよ。」
「裏方?」
「はぁ? おいおい、まさか知らないのか?」
ぽかーんとした顔の彼と、よほどびっくりしたのか見開いた目を彼に向ける大柄な男。
男は身を乗り出して顔を近づけてくる。
「おい、じゃあお前さん、何にも知らないんだな?」
それを彼は限界まで遠ざけるが、狭い馬車内で逃げるスペースもない。
仕方ないので顔を横に向けて対処する。
「…っ、近いですよっ!……まぁ、はい…。 つい、1週間前はただの農民でしたし…。」
それを聞いた男は乗り出した身体を戻し、呆れたように言う。
「…何考えてやがるんだ、上の連中は。 また、ガメポスの野郎か…?」
ほとんど男の独り言みたいだったが、彼には自分がいかに場違いな存在か思い知らされる思いだった。
「お前さん、このあいだの徴兵で呼び出されたのか?」
「だとしたら、こんな奴がどんどん送り込まれるって事か…。」
自問自答をして考え込むようにアゴをさする。
「落ちたもんだぜ、この国も。」
やれやれと言った感じに首を振る男。
「仕方ない。お前、これはもってるか?」
「?」
見た感じはボロボロの小雑誌?
「わからねぇか。まぁ当然か。 コイツは戦術指南書だ、しかもウィンビーン様が書かれたもんだぜ。」
部数は100未満のレアモンだぜ。
と、付け加えてほれっと投げてよこす男。
彼は慌てて手を出すが間に合わず顔面で受けてしまった。
「っ…。」
わりぃわりぃと悪びれた様子もなく謝る男。
彼は気をとり直して落ちた指南書を拾い上げる。
「季刊FEZ…。 見出しはティファリス姫の奮闘? ナンデスカ、コレ?」
「…何って、指南書だよ。」
「そうは言っても、これは…。」
「良いから読めって。12ページからだ。それより前は無視しろ。」
なかば強引に話が打ち切られてしまった。
「………さて。」
いつまでも表紙を眺めていても仕方がない。
意を決してページを開く。
1ページ目は…
見出しにもあったティファリス姫に密着した取材内容。
編集者は〈勝ち豆〉? 誰だ、これ。
パラパラとページを捲り流し読みをする。
見るなと言われれば見たくなってしまうのが人の性だろうか…ふと、目に入った記事を見てしまった。
『戦争における、もえる装備!』
………。
なんだろう?これ。さらっと流し読む。まぁ、なんというか…すごいな…。
「おい!無視しろって言ってんだろ!」
男の野太い声が彼の意識を現実に戻す。
「あ、はい。すいません。」
「何、にやついてんだよ。」
「何でもありませんよ!」