TOV

□それはまるで
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「なぁ、エステル」

前を進む背中に声をかければ、不思議そうに振り向く。
首をかしげながらも、にっこりと笑う姿はどこか幻想のよう。

――なんです?ユーリ

何度も言われたことのあるその言葉も、なぜだかどこか遠くからの言葉のように声が聞き取れない。
振り向いたときに揺れた花びらのようなスカート、淡い光の中ぼんやりと浮かび上がる白の上着。彼女をかたちどるそれらは、とけて消えてしまいそうで。

手を伸ばしたとき、また彼女はくるりと前を向いてしまって。伸ばした手は、ひらりと揺れるスカートの先さえもかすらない。

――みてください、ユーリ

鈴が鳴るような、頭の中にぼんやりと響く声。
手袋に包まれた指が、そっと空に浮かぶ満月を指差した。
何も言わない俺を気にせず、彼女はゆっくりと両腕を広げ、まるで焦がれているかのように手を伸ばす。

月明かりに、あの花の町を思い起こさせる髪が照らされている。
今日は、今までにないほどの満月でやけに月明かりがある。そのくせ、手を伸ばす彼女の足元にある影はやけに薄く見える。

そう、まるで

「…ス、テル」



もう一度振り向いたその瞬間、俺は気づけば彼女をつぶしてしまうほどに強く抱きしめていた

END
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