うみねこ
□おぼえてるしらないひと
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「いってらっしゃい」
「いってきます」
母に返事をして玄関をでる。
渡されたメモを見ながらどこにさきにいこうかと頭の中で予定を立てながら歩く。
大通りにでると1つ2つ上だろう、女子高生が数人集まって楽しそうに会話をしていた。
きゃいきゃいと騒ぐのは同級生の女子達とかわらず、年が上でもあまりかわりはないのかなんて思った。
周りのやつらとかは、年上は大人だって言ってた気がするけど。
その集団から少しはなれたところにたち、信号が青になるのを待っている間なんとはなしに彼女達の話に耳を傾ける。
好きな人の話、とかなんかいろいろ。
秘密だよとか言っているがこんな場所で大きな声で言っていたら秘密も何もないだろう。女子のこういうところが不思議でしょうがない。
まるでテープを高速再生でもしているかのように、彼女達の会話はめまぐるしい勢いで切り替わってゆく。
そんなとき、
「ごめん!遅れた!」
一人、彼女達と同じ制服の女子高生が走ってきた。
明るい日差しの中、きらきらと光る金髪。その女子高生の顔をみた瞬間、胸がえぐられるような感覚。
「ほんっとう、ごめん!」
「もう、しょうがないなぁジェシはー」
ジェシ、
あだ名だろうその呼び名は、なぜだか知っている気がした。いや、それだけじゃない。
高い位置でひとつに結われた、すこしカールがかかっている金髪。
少しつりぎみな大きな瞳。可憐な見た目とは不釣合いな男のような口調。
僕は、彼女を知っている。
けど記憶にはない。ただ身体の奥底から懐かしいような切ないような、…愛おしいような感情があふれ出す。
「お……嬢、様」
ぽつり、唇から勝手に言葉がもれた。
知らない呼び名。漫画なんかでしかでないような呼び名。
けれど、「僕」は彼女をこう呼んでいた。そうだ、そうだそうだそうだ。
「僕は、」
あともう少しで思い出せる。この感情を、彼女のことを。
けれどその瞬間、信号が音楽を鳴らしながら青になった。彼女達はそれをみると歩き出した。
遠ざかっていくその背中。呼び止めたい、離れないで。振り向いて、こっちを見て。
けど、僕は
「…じぇ、し…?」
名前を知らない彼女を呼び止めることができなかった。
狂おしいほど愛しい人、
貴女の名前が思い出せない。