GABRIEL ON THE GALLOWS
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聖地マリージョアに、夜のカーテンが引き下ろされた
夜を待ちわびていたかのように聞こえ始めた小さな透明で凛とした歌声に、この地の森で羽を休めている鳥達は耳を傾ける
そんな静かな森の奥深くにある石造りの塔の最上階
石で造られた冷たい寝台の上、鉄の格子が嵌められた窓の向こうにある白く大きな満月を見ながら、その声の持ち主は膝を抱えて座り言霊を紡いでいた
自身の声に耳を傾ける自由な鳥達に想いを馳せながら
まるで、この身は翼をもがれ籠に閉じ込められた鳥の様
この地に幽閉されて、あれから幾十年経ったのだろうか
日を数えるのは、ここに連れて来られた数日で放棄してしまった
数えたって無駄なのだ
何故なら、もう、ここから出られる事は無いのだから、多分
それでも
それでもこうして生き永らえているのは、遥か彼方の昔に交わした彼との約束があったから
『必ず、迎えに行く。』
たった一言
確証は何処にも無い
幾十年もの間に、もしかしたら彼は忘れてしまっているかもしれない
人間は忘れて生きて行く生き物なのだから
けれど、何故か、彼はあの約束を憶えているという自信があった
自惚れ、と言われても、まあこの際致し方無い
嗚呼、言霊を紡いで吐いたこの歌もそろそろ終わる
終焉に向け、息を深く吸い込んだ刹那
「……」
透明な歌声が、プツリと途切れた
「ぁ。」
スンッと鼻を一度動かすと、その鼻孔を侵すのは塩辛い海風とあれから幾十年と待ち続けたあの匂い
その匂いに反射的に立ち上がるも、両の手を繋ぐ手枷がジャラリと存在を主張し鳴り、繋がれた身体の力がガクンと抜け、床に倒れ伏す
頬に触れた石畳が冷たい
おい、動けよ身体
今行かなければ、どうするんだ
「ッ、くそが…」
手枷のせいで気だるい身体をふらつかせながらも必死で立ち上がる
この為だけに生きてきたのだろう?
こんな所でくたばる自分じゃないだろう?
動け
動くんだ
希望だけで動く自分の身体に、ニヤリと無意識に口許が歪んだ
ほぼ同時刻
「報告致します!」
海兵の一人が五老星に向かい敬礼を一つ
「如何した。」
「はっ!南西の方向に海賊船の姿あり、海賊旗から『白ひげ海賊団』との事であります!!」
「ッ…何故この様な場に……」
白ひげ、の名前を聞くと一瞬動揺するも、五老星等は攻撃の気配が無いのならこちらから手を出す必要は無いと判断を下す
その刹那
ドンッ!と激しい音と共に、このマリージョアの地が揺れる
「白ひげか!?」
「いや、まさかそんな事はっ!!」
しかし、その揺れも一瞬で治まり
「報告!報告致します!!緊急事態です!!!」
ダダダと扉を突き破らんばかりの勢いで、また新たな海兵が五老星のいる部屋に転がり込んできた
「どうなっている!白ひげの攻撃か!!?」
「ち、違います…それよりも大変です…脱獄です……」
肩で息をする海兵のその言葉に、部屋の空気が一瞬にして凍りつく
そして、五老星が信じたくも無い事実が
顔を上げて大声で言い放った海兵により、聖地マリージョア全体に告げられた
「塔の壁を自力で突き破り…『金魚姫のスウ』が脱獄致しました!!!」
…