03/03の日記
23:55
7月30日
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「ところでユーリは、どこに向かう途中だったんですか?」
「えっと、部屋から見えた下の公園を散歩しに―……」
地上直通エレベーターに親父の姿が消えた所で、コンラッドさんに話し掛けられた。
流れから軽く返答してしまったが、目が合った瞬間、固まってしまう。
二人っきりだ、ですよ。
「海側ですぐ真下に見えた場所ですか?」
「……ああっ、はいっ!」
「……?そちらでしたら当ビルが所有する公園ですが、半分は当ホテルの庭園として宿泊のお客様だけに開放してるんです。俺で良ければ案内させて頂きますよ?」
誰もが即答したくなる様な笑顔を向けられたが。
「へ?あ、ああっ!!大丈夫っ、大丈夫です!!」
一歩後退り両手を突き出してブンブンと振る。
広い場所だからこそ出来た技で、これがエレベーター内であれば壁に背中を打ち付けているはず。
何故かそんなオーバーリアクション。
するとコンラッドさんは、予想通り少し驚いた顔になり、次いで何かを考えた後、困った様に笑ってみせた。
やっちゃったか!?、と思ったがもう遅い。
なんて言われるかなんて返せば良いかおれから切り出すべきか!!
空調は適温であるはずなのに、脇の下がじっとりと濡れてきている。
すると突然。
「失礼」
何が!?と思う間もなく、くるりと背を向けられる。
そんな返しは予想外だ!と焦ったにも関わらず、突き出した両手もそのままに彼の行動を見ていると、上着の右ポケットから取り出した何かに視線を落としていた。
雰囲気からすれば携帯な感じで、メール?
様子を伺いながら重力に従いゆっくりと両手を降ろしたところで―
「失礼しました」
おれの方こそ!!と、向き直ったコンラッドさんに心の中だけで叫び、再度上がりそうになった両手を握りしめて我慢した。
そんなおれの心情を見透かしたかの様にコンラッドさんはクスリと小さく笑ったが、その声に反応して彼を見たら表情が少し雲っている様に思えて。
な、なんだろう。
すごく、不安だ。
「すみません。急用が入ってしまいました。30分程で終わりますが、その間―」
咄嗟の素早い動きに、目が付いていかなかった。
コンラッドさんは、おれに笑顔を向けたまま。
そちらを確認もせず、左方向に左手を真っ直ぐ伸ばしている。
視線を肩から肘へ、徐々に流してみると。
終着点、その真っ直ぐ伸ばされた手には、男の人のシャツの襟足が掴まれていた。
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