東にある郷里

□夜劇 -消失-
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暗い、新月に照らされた森を颯爽と飛行していく。
通る道には何も無い、静かな生命の寝息すら無かった。
私はただ飛行し続ける。真っ直ぐに。
そして、前へ進むならば障害があるも然り。
森を抜けた所に一つの人影が見えた。
恐らくこの私の出している気を察して此方に来たのであろう。
私は、その人影と一定の距離をとって停止した。
「・・・・・・・・・・・・何か御用でしょうか?」
と、私が人影に声を掛けた。すると、
「いや、少し変わった気の持ち主がいますね、と思いまして。」
発された声は女性の物であった。人間のものであれば二十代前後といったところだ。
その女性は左手に様々な薬物を持っていた。
人間や妖怪の治療に使われるような、一部は劇毒であるが。
「其れだけでは無いのでしょう?私、こう見えても非常に急いでいるので。」
「其の様ね。なら、単刀直入に言うわ。」
私と、彼女の間に冷え切った風が吹いた。
そして彼女はその美しい顔に微笑を含み、
「姫のお土産に、良いかと。」
「そうですか。」
私は言葉を発し終えた瞬間、弾幕を放つ。
そして彼女も。
恐らく今夜は永い夜になるのだろう。
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